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第1話

No.1
6,955
2021/05/12 12:11
"『ずっと前からあなたの事が好きでした。俺と付き合ってください』





『私もあなたが好きです。こんな私でよければ、喜んで』





彼女はそう言って、にっこり笑う。





そんな彼女を見た彼は、愛おしそうに目の前にいる彼女を抱きしめた。





もう、離れたりしない。





そんなことを言っているかのように。"









あなた

...








そこまで読んでから、私は本を閉じる。





ぐっ、と伸びるついでに時計を見ると、時刻は午後1時をさしていた。





昼休みが終わるまでは、あと25分。





それにしても暇だ。





私、柏田(かしわだ)あなたは、ここ神山高校の図書委員。





昼休みと放課後は、日替わりで図書室の当番をすることになっている。





当番といっても仕事は単純で、たくさんの本棚に置かれている本の位置を整理したり、本の貸し出しや返却をする際にバーコードを読み取るだけ。





今日の当番は私だから、こうして図書室で本を読んでいたんだけど...。





ぐるりと辺りを見回してみるが、人の気配は感じられない。





まあ、図書室に来る人は少ないものね。





私は本が好きだから通ってるだけだし。





...他にも面白そうな本ないかな。





そう思い、カウンター席から立ち上がる。





と、入り口のドアが開いた。





思わず目を向ける。





入ってきたのは、どこか涼し気な雰囲気を纏っているひとりの少年。







青柳冬弥
...柏田も来ていたのか







入ってきたのは、隣のクラスで、同じ図書委員をしている、青柳冬弥くんだった。







あなた

今日の当番、私だから...

青柳冬弥
ああ、そういえばそうだったな







青柳くんは少し、近寄り難い雰囲気がある。





だけど、一緒に図書委員の仕事をしていると、だんだん彼の本当の姿が見えてくるんだ。





本を読んでいる時に、たまにクスッと笑っていたりとか。





最初はずっと無表情で、なにを思っているのか全くわからなかったけどね。







青柳冬弥
柏田







そんなことを考えていると、いつの間にか目の前に青柳くんが立っていた。





青柳くんの手には、本が数冊。







青柳冬弥
本を借りたいんだが、コードを読み取ってもらっていいか?
あなた

あ、うん。今やるね








1年B組の名簿を探し、その中にある[青柳冬弥]と名前が書かれた場所のバーコードを読み取る。





それから本のバーコードを読み取って、返却日にちが書かれた紙とともに本を渡した。

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