"『ずっと前からあなたの事が好きでした。俺と付き合ってください』
『私もあなたが好きです。こんな私でよければ、喜んで』
彼女はそう言って、にっこり笑う。
そんな彼女を見た彼は、愛おしそうに目の前にいる彼女を抱きしめた。
もう、離れたりしない。
そんなことを言っているかのように。"
そこまで読んでから、私は本を閉じる。
ぐっ、と伸びるついでに時計を見ると、時刻は午後1時をさしていた。
昼休みが終わるまでは、あと25分。
それにしても暇だ。
私、柏田(かしわだ)あなたは、ここ神山高校の図書委員。
昼休みと放課後は、日替わりで図書室の当番をすることになっている。
当番といっても仕事は単純で、たくさんの本棚に置かれている本の位置を整理したり、本の貸し出しや返却をする際にバーコードを読み取るだけ。
今日の当番は私だから、こうして図書室で本を読んでいたんだけど...。
ぐるりと辺りを見回してみるが、人の気配は感じられない。
まあ、図書室に来る人は少ないものね。
私は本が好きだから通ってるだけだし。
...他にも面白そうな本ないかな。
そう思い、カウンター席から立ち上がる。
と、入り口のドアが開いた。
思わず目を向ける。
入ってきたのは、どこか涼し気な雰囲気を纏っているひとりの少年。
入ってきたのは、隣のクラスで、同じ図書委員をしている、青柳冬弥くんだった。
青柳くんは少し、近寄り難い雰囲気がある。
だけど、一緒に図書委員の仕事をしていると、だんだん彼の本当の姿が見えてくるんだ。
本を読んでいる時に、たまにクスッと笑っていたりとか。
最初はずっと無表情で、なにを思っているのか全くわからなかったけどね。
そんなことを考えていると、いつの間にか目の前に青柳くんが立っていた。
青柳くんの手には、本が数冊。
1年B組の名簿を探し、その中にある[青柳冬弥]と名前が書かれた場所のバーコードを読み取る。
それから本のバーコードを読み取って、返却日にちが書かれた紙とともに本を渡した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。