教室の中はざわざわと騒がしくて、どこか浮ついた空気に包まれていた。
中間テストが終わって、みんな解放された気分なのだろう。
かくいう俺も、少しだけ肩の力が抜けていた。
そしてこれから、近々行われる体育祭の競技決めが始まろうとしている。
俺は机に突っ伏した。
あんパンであるという事実に、心が折れた。
なぜ去年はクリームパンだったのに今年から変えるのだろうか。なぜクリームパンじゃ駄目だったのか。そもそもあんパンの美味しさはどこにあるのだろうか。
進んでいく体育祭の話に耳を傾けながら、ふと去年を思い出す。
去年は、ばあちゃんがお弁当を持ってきてくれた。
大きな重箱にこれでもかと詰められたおかず。どれもとても美味しかったのを覚えている。
気恥ずかしさがなかったといえばウソになるが、朝早くから準備してくれていたばあちゃんの姿を見てたから、それよりも嬉しさの方がずっと勝ってた。
体育祭の昼休み。
校庭は、家族と弁当を広げる生徒たちがブルーシートを並べて、まるで花見みたいに賑わう。
その輪の中に一人で混ざる気には、どうしてもなれない。
だからばあちゃんが来れない今年は、教室で食べることになるだろう。
前の席で騒いでいるこいつも、確か教室組だったはずだ。
まぁ、一緒に食べる相手としてはちょうどいいかもしれない。
学校からの帰り道。
コンビニの袋を片手に、だらだらと歩く。
中身はスナック菓子。──それが、今日の夕飯だ。
ため息をひとつついて、リュックにしまい込む。
ずっと、早乙女さんが作ってくれていると思っていた。
でもあの日、それが空の手によるものだと知ってからは、もう食べる気になれなくなった。
ばあちゃんは、俺の食べる姿を想像するとそれだけでやる気が出るってよく言っていた。
だけど、空は違う。
早乙女さんたちの分はともかく、きっと本当は俺の分なんて作りたくないはずだ。
気を遣うくらいなら、もういっそ関わらないで欲しい。
そんなことを考えているうちに、家が見えてきた。
腹の奥がぐるぐると重くなる。
まさか帰るという行為だけでこんなにも嫌気がさすようになるなんて、去年の俺は考えていただろうか。
大きなため息をついてから、扉を開ける。
すると、そこには先客がいた。
スーツを着た、若そうな男性。
振り返ったその人の首からは、名札がぶら下がっていた。
『〇〇市立病院・相談員』
陽太(ばあちゃんが入院してる病院だ)
相談員さんは、俺に気が付くとにこやかな笑顔で軽く会釈してきた。
俺もぺこりと頭を下げて返す。
顔を上げた拍子に、玄関で相談員さんに応対していた空と目が合った。
……どこか、焦っているように見えた。
背中を押されるようにして、今入って来たばかりの玄関の外に出された。
パタン、と扉が閉まる。
空はその前で立ち尽くし、視線を彷徨わせながら言葉を探している。
何を聞いても、空は答えてくれない。
視線は泳ぐばかりで、こちらを見てもくれない。
ばあちゃんと一緒に過ごしたのは俺だった。
ずっと、十年間ずっと一緒に居たのは俺なのに。
なのに、こういう時にばあちゃんのことを知る権利さえも、空は奪っていくんだ。
家族を棄てたくせに、今さら出てきて、俺の唯一の家族まで横取りしていくんだ。
空に掴まれていた腕を振り払う。
あっけないほど簡単に離れた空の手は、視線と同じく宙を彷徨うだけだった。
空の声を無視して、その場から逃げ出す。
リュックの中で、押し込んだスナック菓子がガサガサと鳴る。
砕けてしまってるかもな──そんな、どうでもいいことだけが頭の中を占めていた。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。