早乙女さんが嘘をつくような人だとは思わない。
けれど、その言葉をそのまま信じるには、引っかかるものが多すぎた。
それに、一緒に住んでからも、空と目が合ったことなんて一度もない。
いつも視線は泳いでいて、俺を避けてばかり。
そのくせ、早乙女さんや宗助さんとは普通に笑って話してる。
そんな人が「俺と一緒に住むしか考えてなかった」なんて──到底信じられない。
大きなパフェをぺろりと平らげた早乙女さんと一緒に、空に頼まれた食材を買って帰路につく。
その間も早乙女さんはずっと話していたが、俺は生返事しか出来なかった。
ずっと、空のことを考えていた。
空がシェアハウスの管理人をしているなんて、引き取られる時に初めて知った。
ばあちゃんが入院することになった時、ばあちゃん経由でそう聞かされただけだ。
「これからそこに住むんだよ」と言われたのも、空じゃなくてばあちゃんからだった。
……迎えにだって、来なかったくせに。
なんて考えていると、すぐに家についてしまう。
家の前に立った早乙女さんは、ゆっくりと音を立てないように扉を開けていた。
いつもは豪快に開けているのに。
確かに、まだあの病院の人がいる可能性もある。
早乙女さんは、ゆっくりと足音を立てずにリビングへと向かって行った。
そんなに気配を消す必要あるのかな、なんて思いつつ、俺も早乙女さんに倣って同じようにリビングへと近づいた。
扉を隔てた先、リビングからは、話し声が聞こえてきた。
買ってきたものの中には、冷蔵庫に早く入れたほうがいいものもある。
……どうすればいいんだろう。そう思って早乙女さんを見ると、彼女は人差し指を口元に当てて、静かに──という合図を送ってきた。
そして、そっとリビングの方を指さす。
少しだけ開いた扉から覗いてみると、そこにいたのは空と宗助さんだった。
ひどく落ち込んだように、空はそう言った。
早乙女さんがさっき言ってたことは嘘だったんだ。
「俺と一緒に住むしか考えてなかった」なんて。
あれは、俺を慰めるための嘘だったんだ。
宗助さんの提案に、驚きはしなかった。むしろ、そうだよなという妙な納得感があった。
悲しくない訳じゃない。でも、それでも。
諦めにも似た感情を抱いたその時。
聞いたこともない空の大きな声が、リビングに響いた。
二人のやり取りに、俺は目も耳も奪われていた。
強く言い切った空は、普段のへらりとした笑みは浮かべていなかった。
兄の資格がないなんて弱々しくこぼしていた時の声でもない。
まっすぐで、迷いのない声だった。
頭の中がぐしゃぐしゃになって、これ以上何も聞きたくなくて、俺は持っていたものを早乙女さんに押し付ける。
早乙女さんが呼ぶ声を無視して、俺は再び家を飛び出した。
















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。