家から逃げるように走って、しばらくしたところで足を止める。
商店街に続く道は人通りも多く賑やかなのに、ひとりぼっちの気分になる。
俺の横を通り過ぎていく人はたくさんいるのに、たくさんの音が鳴っているはずなのに。
通り過ぎていく人の姿も、音も、全部遠くなる。
景色から色が、ゆっくりと消えていく。
あの時と同じだ──大切な人がいなくなる時、世界はこんなふうに静まり返る。
両親が死んで、兄がいなくなったあの時と、まったく同じ。
体の力が抜けて、その場に立っているのもつらくなったその時。
ふと、甘い香りが鼻をくすぐった。
聞きなれた声だ。
予想は的中して、そこにはクレープを片手に早乙女さんが立っていた。
すでにほとんど食べ終えていたクレープを口に放りこんだ早乙女さんは、そのまま俺の傍まで来て、軽く背中を押した。
その瞬間、静まり返っていた世界に、ざわめきが戻ってきた。
気付くと、俺の周りには喧騒が戻っていた。
止まることのない早乙女さんの話を聞きながら、商店街の方へと歩いていく。
さっき、空が早乙女さんの買い出しの手伝いをしてほしいと言ったのは嘘ではなかったらしい。てっきり、その場から遠ざけるための口実だと思っていたのに。
空は早乙女さんや宗助さんには笑みを浮かべて楽しそうに話す。
だけど、俺がいたら一瞬でその空気が崩れる。
その笑顔も、声も、全部ぎこちなくなる。
俺が邪魔だってことくらい、どんなに鈍くても気づく。
俺の背中を押していた力が、ふっと消える。
振り返ってみると、早乙女さんの足が止まっていた。
喫茶店の前でじっと何かを見つめている。
その視線の先には──巨大な『ジャンボパフェ』の食品サンプル。
落ち着いたジャズが流れる店内で、早乙女さんは運ばれてきたジャンボパフェに目を輝かせていた。
一口食べた早乙女さんが、同じスプーンでクリームをすくってこちらに差し出してくる。
甘ったるいに匂いに思わず顔を顰め、首を横に振った。
それに、なんとなく早乙女さんと同じスプーンを使うことに罪悪感があった。
まるで天気の話でもするみたいに、あっけらかんと言った。
目の前のパフェをぱくぱくと口に運んでいく早乙女さんの視線は、パフェに向けられたまま。
早乙女さんの話は、正直難しいと思った。
生きたいように生きられない。自分がやりたいことを認められず否定される、ありのままで生きていくことに壁が立ちはだかる人生を、早乙女さんは送っているのだということは分かる。
でも、空が分からない。
空も、早乙女さんと同じように壁を感じているのだろうか。
……何に?
それに──……
俺の考えていることを見透かしているのか、やわらかく笑った早乙女さんは、生クリームをすくったスプーンをもう一度差し出してくる。
反射的に受け入れた瞬間、甘ったるい味が口いっぱいに広がった。
その甘さが、ぼんやりしていた頭を一気に覚まさせる。
その言葉の意味が頭に入ってくるまで、たっぷりと時間がかかる。
食べなれない、甘すぎる生クリームのせいかもしれない。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。