俺は、お兄ちゃんが嫌いだ。
暴力を奮ってくるから。
親の前では優しいお兄ちゃんを演じる。
俺に暴力をふるおうとする親を止めたり、俺を守ってくれたりする。
でも、それはそのせいで俺が死んだら困るから。
お兄ちゃんのストレス発散用具である俺が死んだら困るから。
暴力を振るわれるだろう。怖かった。
でも行かなきゃ殺される。殺されるよりマシだ。
俺はお兄ちゃんの道具なんだから。約束は守らなきゃ……。
なんでこんなくだらないこと考えてるんだろうって、思うけど。
でも、痛みは感じられなかった。
前からずっと感じられない。
痛いと思えなかった。
殴られたことより、道具として使われたことに傷ついた方が大きかった。
学校のことに、友達のことに不満を抱えているお兄ちゃんのストレス発散用具が、なんで俺なんだろう。
もう、疲れたよ、俺。
疲れた。面倒くさくなった。
俺はその日の夜、家を出て散歩に行った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!