「おや、陣川くん」
ひどく大きな声に反応して、杉下が返事をした。
どうして!今!ここに!この男がいるんだッ!
神戸は衝動的にそう叫びそうだった。
陣川は普段、捜査一課の経理にいるはずだ。こんなところにいていいはずはないのに……
いつもなら面倒臭いのが来た程度にしか感じなかったのだが、今という今は焦りの方が多かった。
「実は、相談があるんです」
「おや、また女性のことですか?」
「いや今回はそれじゃなくてですね」
「最近知り合った女性がいまして」
女じゃねーかッ!
神戸の心中のツッコミには構わず話が続けられる。
「その女性が所有している家を見に行ってほしいって。強盗が居座ってる可能性があるからって。見に行けないらしいんです」
「行けばいいじゃありませんか、君が」
杉下が言う。最もその通りなのだが、
「うーん、でも、ぼく強盗に銃を向けられても困るんですよ。だって経理だし」
だって経理だし、でいつもの、事件に首を突っ込むくせを抑えればいいのに、と思ったのは神戸だけではなかった。
この人と話しているとツッコミ所しかないのだが、そこをツッコませないところが、陣川が陣川たる由縁である。
「で、我々にどうしてほしいんでしょう」
「一緒に来てほしいんです!」
また面倒ごとを持ち込んだな……と、その場にいた全員が痛感した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。