3人はある和風屋敷の前で立ち止まっていた。
これこそ、陣川が最近知り合った女性が所有している屋敷らしい。
「うわぁ緊張するなぁ」
陣川は何故か緊張しだした。その隣で神戸はただひたすらに反応しないように努めるのだった。
「行きますか」
杉下が号令をかけると、そうですね、と2人も動き出した。
引き戸を引くと、木の匂いが漂う。
すると陣川が、
「森の中みたいですね!」
と言った。
彼は森がなんたるかを知らないのだろうか。わけのわからない表現をして3人の1番後ろを陣取った。
丁度、5つ目の部屋の庄司をあけた時だった。
「わっ⁉︎」
陣川が叫んだ。
声に伴って2人が後ろを向くと、なんとも奇妙な状況となっていた。
1人の男が、陣川の頭に銃を突きつけ、人質を取る形になっている。
どうやら空き巣犯は、本当にいたようだ。
「お前ら、何してる!」
男が乱暴に尋ねた。
「な、なにか不審なことをしたらなぁ、この男を撃つぞ!」
さすがの杉下や神戸も、陣川と言えど人質を取られてしまったら動けない。
「違います!ぼくらは強盗がいないか確かめに来ただけで……」
モロ言いやがったコイツ!
という神戸の心中のツッコミは華麗にスルーされ、杉下が男に話しかけた。
「人質をはなしなさい。我々は警察ですよ」
「クソッ……」
カチャリとホルダーを回す。男の顔に冷や汗が流れる。
陣川の首に回していた腕に力を入れるとと、喉が閉まりそうになった陣川が声にならない嗚咽をあげた。
と、その時である。
「警察だぁっ!」
玄関の方から聞き覚えのある声がした。
男が動揺し警戒を緩めた隙を狙い、神戸が溝落ちに蹴りと拳を入れた。
「お見事ですねぇ神戸くん」
空き巣犯の縛りから、やっとのことで解放された陣川は、喉を抑えて激しく咳をした。
男が逃げ出そうとするのを、やって来た伊丹や芹沢、三浦が抑えこんだ。
「お前、一週間前にあった強盗殺人の重要参考人だよなぁ?どうしてウチの陣川人質に取って銃なんて持ってんだえぇ?」
伊丹に責められ何もいえなくなったところを、三浦が時刻を読み上げ現行犯逮捕
した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!