そしてそれからは滞りなく入学式がはじまり、やっと新入生という気分を心から味わうことができた。
左胸には新入生の証の真っ赤な一輪の花。
新品の制服に上履き、まだ慣れない教室の匂いとクラスメイトたちの声。
全てが新しいことばかりで、これぞ入学式だという雰囲気だ。
初めてのHRが終わり、先生も教室を出たところで問いかけてきたのはとなりの席の隼介。
同じサ行の名字の私たちは出席番号が同じで、席もとなり同士だったんだ。
そんな会話をしながらイスから立ち上がり、
と言っている真美と合流し、教室を出て階段を下りていく。
鼻息あらく、真美が私と隼介の関係について興味津々に聞いてくる。
私は投げやりにごまかし、隼介が
と言ってふざけていると、一年生のくつ箱のすみっこに背が高い男子生徒が立っていた。
ここでお別れだと思って他人事で聞いていたら、隼介に手首をつかまれる。
そしてとなりにいた真美はテンション高く答えていた。
人が増えたせいか、面倒そうな表情を見せながらも、黒色のサラッとした髪をなびかせて歩く涼真を先頭に、隼介、私、真美と続いて昇降口を出た。
だけど、真美はご両親が待っていてくれて、正門で別れることとなった。
その時の真美のくやしそうな顔は、とても言葉で言い表せそうにないくらいだ。
私の親も待ってくれていたのだけど、「相良兄弟がいるのならこの辺りを案内しながら帰って来なさい」と言われ、泣く泣く涼真、隼介、私というメンバーで電車に乗っている。
昼間の車内はそれほどこんでなくて、私たち三人は誰も座っていない座席へと並んで座った。
苦笑いでさそいを断る私と、私ばっかりを見てほほえんだまま目をそらさない隼介。
座席のはしに座っている涼真はとなりに座っている隼介の話をだまって聞いている。
だから、私と隼介だけで話しているようなものだ。
そんな空間もなんだかいごこちが悪くて、涼真にも話を振ってみた。
言いたいことをじゃまされたからか、少し不機嫌になって隼介は涼真に言い返している。
その弟の態度を見ながら、涼真は大きなため息をついていた。
私の謝罪に素っ気なく答える涼真。
なんだか知らぬうちに踏み込んだことを聞いてしまい、苦い気持ちになった。
ダメだ、もうこれ以上、なにも聞かないでおこう。
それからは質問ぜめの隼介の話を適当にかわし、首をゆらせながら、苦手な愛想笑いを続けた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。