両親と合流して受付をすませたあと、隼介に教えてもらったとおり、くつ箱の前に貼り出されたクラス名簿を確認して新入生の教室へと三人で向かうため、ピカピカの新品の上履きにはきかえた。
大きなため息をつく私とは正反対に、隼介も真美もテンション高く新入生の教室がある三階へと階段を上がっていく。
涼真も涼真だ。
隼介を私にまかすなんて、どれだけ過保護なんだろう。
たしかに隼介はすぐにさわぐし、周りを見ていないから兄としては心配でしょうがないのかもしれないけれど。
そんなことを考えていると、近距離に隼介の顔が現れて驚きと同時にため息も出た。
ずっとニコニコしている笑顔をこの近い距離でふりまく。
こんな素直な性格の隼介のことを考えれば、もし意地悪なクラスメイトたちに絡まれるなんてことになったら……
兄としては、そういう弟のことが心配でたまらないんだろうな。
だからって知り合ったばかりの私にまかせるのはお門違いだと思うけれど。
教室に向かう途中の廊下の窓から隼介が顔を出し、その横で真美がハートマークがつきそうな声で涼真をお兄さまと呼んでいた。
私もその一歩うしろから、涼真の姿を窓越しに見つけた。
涼真は私たちがいる校舎の向かいの二階の窓に背中をあずけ、女子半分、男子半分の約十人くらいの同級生らしき人たちにかこまれて質問ぜめにあっている。
三年からの転校生がめずらしいのか、それとも涼真自身に興味があるのか、ここから見える涼真の横顔はなかなか困っていた。
苦笑いの隼介の言葉のあとに、私はポツリと本音をつぶやく。
思っていたことをストレートに言っただけなのに、そのことに隼介は大きな目をキラキラとさせ、なぜか感動していた。
ヤバい、隼介にあの恋愛モードのスイッチが入りそうだ。
隼介のテンションが下がり、ホッとしたところで真美が指さした方向を向く。
そこにはぶっきらぼうにも女子や男子たちにかこまれながらお喋りをしている涼真の横顔が見える。
私と話す時もあんな顔をしているなと思うと、口が勝手にとがってすねた表情になってしまう。
涼真に負けないくらいぶっきらぼうに二人に声をかけてしまう。
そんな私に隼介も真美もついてきてくれ、朝からのバタバタのせいで緊張するヒマもなく私は一年間通うことになる一年一組の教室の扉をゆっくりとスライドさせた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!