新しい制服を着て、本当なら浮かれた気持ちで見なれた住宅街を一つ大人になった気分で歩くはずだったのに。
私にとってあこがれの高校への第一歩という道なのにそんな余韻にひたれることなく、あわただしい初登校を迎える。
駅のホームでも、満員電車の中でも、突然現れたテレビに出てくるアイドル並み……いや、それ以上なイケメンオーラを放つ二人の兄弟の存在感はすごかった。
それは通学する電車内だけでなく、高校に到着してからがもっと大変だった。
「うわっ! 誰あのイケメン二人! すっごくレベルが高いんだけど!」
「芸能人かなー? テレビカメラ来たりしちゃってる?」
「顔、結構似てるよね? 兄弟かな? それにしてもカッコいいー!」
うるさい……相良兄弟を取り巻く、特に女子たちの声がとにかくうるさかった。
正門をくぐると、私たち新入生は昇降口へと向かって入学式の受付をする決まりだ。
さっき電車の中で親は仕事で来られないと隼介が言っていたから、親代わりに涼真が受付を行っている。
多分、こうなるだろうとは思っていたけれど、兄弟そろってイケメンの二人は、主に女子を中心とした注目の的となっていた。
私のすぐとなりで大きな声を上げたのは、一緒に教室に向かおうと思い正門辺りで待っていた親友の真美だった。
真美は今日のためにうすい茶色の髪色のボブカットをきれいに整えている。
まゆも肌のスキンケアもリップまでもちゃんと手入れをする女子力が高い女の子だ。
そして、イケメンを見つけるのも高校生になってもおこたらないらしく、相良兄弟を見つけては早々にテンションが高くなっていた。
真美があっちの方向を指さしながら、私の新品の制服の袖を引っぱる。
私は二人がいる方を向きたくなくてそっぽを向くけれど、それは隼介の大声のせいで逃げられなかった。
言い終わると同時に隼介が私と真美の前に着いて、そしてうしろからやってきた涼真のげんこつが頭にさくれつする。
涼真の言った言葉は私も心の中で大きく叫んでいたことだ。
涼真の言い分にはげしくうなずこうとしたら、その肩は真美の強力な手でつかまれ、ブンブンと振り回されてしまう。
涼真は私に隼介を押し付けると手をヒラヒラッと振り、あくびをしながら私たちの前から去って行った。
混乱状態の真美とうれしそうに笑顔をたやさない隼介が私をジッと見ている。
そんな私たちのやり取りが目立たないわけがなく、その場にいた生徒全員と保護者の注目の的となってしまい、入学式が始まるという緊張感を味わうよゆうもないまま、校内へと向かった……
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。