私を仕事から帰ってきた父親とまちがえたのは、弟の方だった。
笑っていた顔は、すぐにキョトンとした顔になる。
なんだか申し訳なくなってしまって、あやまりながらラッピングしたシュークリームをわたす。
ちょっとさびしそうになっていた弟の表情はシュークリームを見ると、瞳の光が戻ってきたみたいに明るくなった。
ラッピング袋をしっかりとにぎりしめたまま、弟は私との距離を一気につめてくる。
その勢いに負けて、私はまだだった自己紹介を他人の家の玄関で始めてしまった。
元気いっぱいに自己紹介をしてくれていた間、隼介の顔が近すぎていつここに来たのか全く気付かなかった。
兄の涼真が隼介のすぐうしろに立っていたんだ。
隼介の向こう側から現れた涼真は、やはりそこにいるだけで存在感がある。
弟の隼介も、クラスの中でもトップになれるくらいのイケメンだと思う。
短く刈っているツーブロックの髪型は隼介らしいさわやかさがあって、人なつっこい笑顔にとてもにあっている。
顔のパーツも兄のおさないバージョンって感じで、どこからどう見てもイケメンだ。
隼介も涼真も二人の持つ雰囲気は、今まで見てきた中学生の男子なんかと全然違う。
それでも、こんな言い方をされればいくらイケメンでも頭に血が上るくらいカチンとくる。
怒った私がまた言い返そうとしたら、隼介が涼真に怒った表情を見せていた。
誰が聞いてもわかるくらいの棒読みで礼を言う兄の涼真。
本当、弟とくらべると愛想がないなと思う。
そう言うなり、隼介はシュークリームを一つ、ラッピング袋を勢いよく開けて取り出す。
涼真から
と注意されていたけれど、聞く耳持たずだ。
そして大きな口を開けて、ガブッとほお張り、口周りにクッキー生地をつけながらモグモグと食べている。
その顔は心から喜んでいて、とてもうれしそう。
部活をしている食欲旺盛の男子ってこんな感じで食べるんだろうなってかんたんに想像ができちゃうくらい。
隼介の行動に呆気に取られていたけれど、兄の涼真はこんな弟を見慣れているみたいで、あきれた顔をしたまま隼介のために飲み物を取りに部屋に入って行った。
その慣れた行動に、面倒見がいいんだなぁと後ろ姿を見ながら感心していた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。