木で視界が遮られ、その姿は捉えることができなかった
それでも、はっきりと聞こえた出久くんの声
木の葉や草がざわざわと揺れ、まるで私にその声を聞かせようと騒いでいる
私が行ってどうにかなるのかと聞かれると、私は言葉を失ってしまう
それでも、私は走り続けなければいけない
その先にある何かを掴むために、ヒーローは走り続ける
だから、私は走る
ヒーローになりたいから!
草木を勢い良く掻き分け、開けた道に飛び出す
そこには、敵に動きを封じられ、今にも連れていかれてしまいそうな勝己くんと、それを追う出久くんがいた
それを見た瞬間、私は口を開くしか無かった
勝己くんは闇の中に消えながらも、最後にそう言った
伸ばした手には何も触れることなく、消えてしまった
目から溢れ出る涙が、私の全てを流しているような気がした
それは嫌だ
だけど、止まらなかった
受け止めたくない事がたくさんあって、苦しくて、、
私はやっぱり、何も出来ない..何も無い..ただの塊なのかな..ッ
静かに目を閉じると、身体の力がいっきに抜け、私はその場で寝てしまった
・
・
・
目を開くと、眩しい光がこっちを仰いでいた
声こそ出るものの、しばらく寝ていたのか、ぼそぼそとしか出なかった
寝そべっているものはとても柔らかくて、心地が良かったから、直ぐにベットだと気が付いた
ということは、ここは...
むくりと身体を起こし、辺りを見渡す
そこにはたくさんベットがあったけれど、人は誰一人といなかった
思い出したくなくても、常に脳裏に現れる勝己くんのあの言葉
暗い視界の中で、勝己くんが遠くへ行ってしまう
そんなの、嫌だ..
私はずっとあなたの傍を歩くと決めていたの..ッ
なのに、、
我を忘れて、私はただひたすらに叫んだ
"そんなことをしてもどうにもならない"
そんなことを考えることすら、その時の私にはできなかった
看護師さんがナースコールで応援を要請していた
それすら何をしているのか理解できなかった私は、不安で全身が包まれてしまった
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。