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2019/03/11

第3話

【放課後、密室、先輩とひみつ】1
キーンコーンカーンコーン……。
終わりのチャイムが鳴る。ううん、むしろ、始まりの音が。
私、西川梨子にしかわりこは、一年三組の教室で、チャイムの音と共に自分の席で頭を抱えた。
放課後を告げる音に歓喜しているクラスメイトに、恨めしい視線を送る。
うらやましい……。このまま家に帰れる人たち、みんな。
友理奈
こらー、何やってんの、梨子。睨まなーい。てか、怖ーい
クラスメイトで友達の友理奈ゆりなが、私の頭をペシッと軽く叩く。
痛くもないのにそこを擦りながら、私は情けない目を友理奈に移した。
西川梨子
西川梨子
だって、部活行きたくない……
友理奈
入らなきゃよかったじゃん
西川梨子
西川梨子
それは言わないで……
友理奈の無慈悲な物言いに、再び頭を抱えようとポーズを取りかけると、ひとりの男子が私の机にぶつかった。
男子生徒
悪い、大丈夫?
西川梨子
西川梨子
あっ、だ、大丈夫……です
至近距離で謝られ、私はビクッと身を退いた。
縮こまってしまった私を見て、友理奈がため息をひとつ。
友理奈
よくそれで、サッカー部のマネージャーやろうとか思ったよね
それを説明するには、二ヶ月前の四月に遡らなくてはならない。



桜の花びらが咲き誇る、四月上旬。
幼なじみの知宏と共に高校へ入学して、一週間。ある日の放課後。
私は……とても困っていた。
西川梨子
西川梨子
ねー……、やっぱり私行くのやめるよ……
杉知宏
杉知宏
なんだよ、ここまで来て。どうせ、このまま家に帰るだけだって言ったじゃん。部活見学くらい付き合えって
靴箱で上履きから外履きに履き替え、校舎を出る。
隣の知宏に、私は嫌々ながらに眉を寄せて、ため息をついた。
西川梨子
西川梨子
だって、サッカー部でしょ? 男子しかいないんでしょ?
杉知宏
杉知宏
普通はそうだろ
中学までずっとサッカー部だった知宏ともひろが、もちろん高校でもサッカー部へ行こうというのは当然のことだと思う。
人見知りで、まだまだクラスに馴染めていない私を気遣って、見学に誘ってくれた知宏の優しさにも感謝はしている。……だけど。
西川梨子
西川梨子
知ってるでしょ、私が男子苦手だって
問題は、これ。
昔から男子を目の前にすると緊張で上手く喋れなくて、言葉に詰まってしまって。
成長するにつれ、ますます意識してしまうようになり、それはどんどん悪化していった。
杉知宏
杉知宏
別に、一緒にボール蹴れって言ってるわけじゃないんだしさ。見るくらいはいいだろ。そしたら、他の男子とは近くないじゃん
西川梨子
西川梨子
そうだけど……
練習に参加しなくても、女子はそもそも選手になれないんだから、見学者だって男子ばかりなんじゃないのかと思うんだけど。
そしたら、結局は男子の近くでサッカーを見なくてはいけないわけで。
杉知宏
杉知宏
俺とは普通に喋るくせに
生まれた時から近所に住んでいて、母親同士が親友。そんな環境下で育った私たちは、物心がついた頃からお互いが遊び相手だった。
そんな、性別も意識する前から一緒にいた知宏は、もはや別々に住んでいる兄妹みたいなもので、今さら異性ということで意識することはない。
西川梨子
西川梨子
知宏は特別。幼なじみだし今さら。クラスも一緒でよかったよ……。他に誰も知り合いいなかったしさ
杉知宏
杉知宏
……ふーん? 特別なんだ? 俺って
西川梨子
西川梨子
何ニヤニヤしてんの?
人が困ってるのに。と、怪訝な表情を向けると、知宏は「あそこ」と、グラウンドを指差した。
歩きながら話していたら、いつの間にかサッカー部が練習しているグラウンドに到着していた。
予想していたのは、男子ばかりの練習風景に、入部希望の一年生男子たち。だけど、グラウンドのフェンスの向こう側で見学しているのは女子ばかりで。
西川梨子
西川梨子
あれっ、女の子しかいないんだね……
なんだ、思ってたのと違う……。
杉知宏
杉知宏
中学の時も、結構こういう感じだったけど
西川梨子
西川梨子
そうなの?
杉知宏
杉知宏
お前、俺の部活見に来たこと、一回もなかったもんな
西川梨子
西川梨子
うん、サッカー興味なかったから
男子しかいないと分かっていて、わざわざそこに飛び込んでいくなんて自殺行為でしかない。
「あっそ」と、人知れず肩を落としてため息をつく知宏の声は、女子の黄色い歓声にかき消された。
女子生徒
きゃーっ! 浅野くんすごーい!
女子生徒
さすがー! かっこいいー!
その声に反射的に視線を向けると、グラウンドではひとりの男子がドリブルをしながら、次々と敵チームのメンバーをスルスルと追い抜いていくところだった。
まるでボールが体の一部にでもなっているかのように、立ちはだかる障害をものともしない。
それは、サッカーをよく知らない私ですら、凄さが分かるくらいで……。

──瞬間、目を奪われた。
周りの音が、消えたような気がした。
綺麗な茶色に染まった髪が、風に揺れている。
最後にシュートを決めた真剣な横顔が正面に変わって、嬉しそうに口を開けて笑う。
他に何も見えない。何も聞こえない。
景色が、スローモーションになる。
初めての感覚に、その場から動くことが出来ない。