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2019/03/19

第6話

【放課後、密室、先輩とひみつ】4
部の練習が始まって、私はたくさんの洗濯物を抱えながら、ボールを蹴る浅野先輩を目で追って頬を膨らませた。
フェンスの向こう側では、また複数の女子が浅野先輩に騒いでいる。
それに応えるように、ヘラヘラと笑顔で手を振る姿は、もう毎日のこと。
渡瀬澪
渡瀬澪
みんなー! ウォーミングアップはそこまで! 今から外周十周でーす!
澪先輩が、大きく手を振って部員に呼びかける。
皆が素直に「はい」と返事をする中、唯一浅野先輩だけが唇をとがらせた。
浅野大翔
浅野大翔
えー、澪ちゃん、十周ってさすがにキツくね? 減らしてよ
ほら、始まった。
この人、いっつもそう。辛い練習は嫌がって、女の子に騒がれるようなことだけは本気を出す。
私は、ただでさえ風船みたいにパンパンになった頬袋をますます膨らませて浅野先輩を見た。
渡瀬澪
渡瀬澪
だめでーす。先生がちゃんと考えた練習メニューなんだからね。浅野くんだけだよ、そういうこと言うの。エースなんだから皆のお手本になりなさーい。ほら、わがまま言わないで早く行って。いつまでもグラウンドにいられると邪魔だよ
浅野大翔
浅野大翔
うぇーい
澪先輩が背中を押して、浅野先輩は渋々足を進める。
その間際、私の顔をじっと見て、
浅野大翔
浅野大翔
どうしたの? なんか、さっきよりブスになってるよ
余計な一言を放って、グラウンドを出て行った。





西川梨子
西川梨子
なんであんな人がエースなんですか?
脱水が終わったばかりの洗濯物を、思いっきり空中に叩きつけてシワを伸ばす。
パンッと、小気味のいい音が響いた。
そりゃあ、隣に澪先輩がいたら、元々大したことない顔面がさらにブスに見えるでしょうけども!
先ほどの仕返しと言わんばかりの自分の不機嫌な声に、隣にいるのが澪先輩だということを忘れていた。
そうだ、ふたりは付き合ってるんだった。
彼氏をこんなふうに言われたら、いくらいつも優しい澪先輩だって、嫌な気持ちになるに決まってる。
西川梨子
西川梨子
……ごめんなさい
渡瀬澪
渡瀬澪
えー? 何で謝るの?
いつも通りに笑いながら、やわらかく返す澪先輩。
本当に大人だなと、自分が恥ずかしくなる。
私だったら、自分の彼のことを悪く、しかもそれを後輩に言われたら絶対機嫌が悪くなる自信がある。
……いたことないけどさ、彼氏とか。
渡瀬澪
渡瀬澪
んー、中学の時からそうだったからなぁ。あ、言ったことあったかな? 私たち、中学も一緒なの。浅野くん、結構何でもサラッと出来ちゃう人だったから、才能あるんだろうねぇ。三年生はこないだ引退しちゃったしさ、この部は今、浅野くん頼りなところあるよ
才能って便利な言葉。どうせ、ろくに努力もしないで、あっさりエースの座についたに決まってる。
サッカーのことをほんの二ヶ月前に勉強し始めただけの、私みたいな素人にも分かるほどに、適当っぽく見えるし。なんかチャラチャラしてるし。女の子には調子よくニコニコしてるだけで、なのに私には意地悪だし。
渡瀬澪
渡瀬澪
浅野くん、口悪くてごめんね?
西川梨子
西川梨子
いえ、澪先輩が謝ることでは……
渡瀬澪
渡瀬澪
女の子には基本優しいんだけどなぁ。広く浅く。うーん、梨子ちゃんのことはお気に入りなんだと思うよ
西川梨子
西川梨子
まさか
あれの、どこが。
入部からずっと、優しくされたことなんてない。
そんな、無理やりいいように言ってもらわなくても、ちゃんと分かってる。
澪先輩は、ふふっと柔らかく笑う。
初めて浅野先輩を見た日、ちょっとかっこいいかもなんて思わなきゃよかった。
あの真剣な瞳に、目を奪われたなんて。……きっと、何かの勘違いだったんだ。