前の話
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私は産まれた時から脚が無い。
比喩では無い。事実だ。
私には人間であれば…いやこの地を歩く生物ならば
ついている筈の脚がないのだ。
同い年の子達からは幼い頃から
「化け物だ」と罵られ、
周りの大人からは昔から
「可哀想に」と同情されてきた。
親は私を産んだ事をひどく後悔し、
祖父母は私を孫だとは認めてくれなかった。
愛されたい。こんな私を認めて欲しい。
そんな欲求とも言える心は私を蝕んでいった。
いつしか陸を普通に歩けている人間達が
とても憎たらしく思えてしまった。
分かっている。私は私だ。他人の意見なんて耳を貸すななんて
言われるのがオチだと言うのは分かっている。
けど仕方ないじゃないか。実の両親ですら、
私を哀れんで愛してはくれなかったのだから。
…こんなこと考えても仕方ない。
そう思い私は眠りについた。
すると声が聞こえたのだ。
男性とも女性とも取れる中性的な声で
私は徐々に意識を落としていった。
強くとても強く、
「普通の人として生きてみたい」
と願いながら。
起きると私は下半身に違和感を覚えた
私の願いを少しの間神様が叶えてくれたのか
はたまた夢だったかは私にも分からない…
けどとても嬉しかった。
だから私は慣れない脚で走り出した。
歩く度に感じる地面の感触。
初めての感触に感動と涙が止まらなかった
数日経って、私は元の暮らしは
どうなってるのか気になった
足がないままがいいわけではなくて
けどそれでもなんとなく考えた
すると
海に落ちるような…そんな感覚に襲われた
きっと神様がタイムリミットだよって
教えてくれてるんだと思う。
私はその記憶を最後に
元の生活に戻った
その後、
ドラえもんという漫画を
進められて読んだ。
『もしもボックス』
あの一件があって
私は変わった
『ままー!!』
こんな体でも私は生きているから。
せめて娘が成人するまでは
生きてみようかな
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!