「じゃあ、するか。」
あれから、放課後に2人で教室を借りて練習することになった。
有安くん、きっと強いんだろうな。
目の前の相手を前にして私は少し、怖気付いていた。
「難波津に 咲くやこの花 冬ごもり」
緊張する…
ちらっと有安くんを見ると、私とは対照的に落ち着いた表情をしていた。
「今を春べと 咲くやこの花
今を春べと 咲くやこの花」
来る…
「ありあ」
私は『ありあ』で、自陣右下段の『ありあ』の札の真上まで手を伸ばしたが、気づいたら、私が札に触れる前に有安くんの手が、無駄な動き無く、見とれるほど綺麗に札を払った。
「スパーン」
札が飛ぶ音で、私はハッとした。
あんな綺麗な取りはクイーン戦や名人戦の動画でも見たことがない。
「有安くんって何でそんなに綺麗に取れるの?」
「分からない。」
相変わらず、言葉が少ない。
その後、私は有安くんに束負けした。
落ち込んでいると、教室のドアがガラッと音を立てて空いた。
反射的にそちらを見ると、女の子が入ってきた。
「今、見てた。
競技かるた…だよね?
かるた友達探してる人がいるって聞いたから…私もやってみたくて…」
その子は橘 菜乃花さんというらしい。
初めての女の子のかるた友達で、けっこう嬉しい!
明日から、橘さんも練習に参加するらしい。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!