お父様は少しずつ、私に近づいてくる。
私は、金縛りに縛られたように、動けなかった。
お父様は私の首に手を置く。
私は時間が止まったみたいに、動けずぼう〜っと立っていることしかできない。
恐怖のオーラを放つ父が、この一瞬だけオーラが収まっていた。
……それに、私が聞いたことがない悲しそうな声。
そこから、私の意識は飛んでいた。
ぐるぐると気持ち悪いほど、頭痛がする。
誰も助けてくれない。
私は助けを求める。
その小さな声がだれかに届いたのか。
誰かが私の名前を呼んでいる気がする。
尋ねても、答えてくれない。私はまた少し不安になる。
この人を頼ってもいいのかと。
すると、先ほどの人とは違う声が聞こえてきた。
また、違う人の声が聞こえてくる。
また、違う人。
すると、私の手に少し暖かなものが握られていた。
私はそっと暖かいものを胸に置く。
暖かいものは、私に語りかけてきているような気がする。
「俺たちを信じろ」「勇気を出して」………。
私はその言葉を信じて歩き始めた。
どこに向かうかなんて知らない。でも、こっちに行けばまた会える気がする。そんな気がするだけだ。
すると、不意に体が軽くなった。
どこからか、お姉さまの声が聞こえる。
お姉さまの声が離れていく。もういなくなったんだと感じた。
また、誰かが呼んでる気がする。
誰だかわからないのに、もうそろそろ起きなきゃと思った。
私は勇気を振り絞り、瞼をゆっくり開けるーーーーーーーーーーーーー
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!