彼女は気付いていない。こんな悲しいキスが今まであるのだろうか。
とりょうは悲しい顔をしていた。
うっすらと目を開け、いつもと変わらぬ黒い目にりょうの姿が映し出される。
………いつもとは違って、うっすらと涙を浮かべながら。
ふいに、溢れた一つの言葉。
あなたは首を横に振る。
静かに彼女は目を閉じる。
………そっと、彼女の目から一筋の涙がこぼれた。
小さな寝息をこぼす。
りょうは、腕の中で静かに眠る彼女のこぼれた涙を静かに指先で拭き取った。
りょうは静かに彼女を強く抱きしめた。
静かに抱きしめる彼。…………あなたは気付かず、寝息を立てる。
静かに、時間が流れていく。
秒針は2人を見ながら進んでいく。誰にも止められない。
父親が取り戻そうとするのも、すぐ先の話。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。