第73話
だい。ごじゅうごわ
意識が朦朧としている私に誰かが話しかけている。
私は……何か椅子に縛り付けられているのか?体が動かない。
私は小さな声で彼らの名前を呼ぶ。
すると、その声の主は、あははと笑い声をあげる。
彼らのことを「あいつら」って呼んだ。
…………どういうこと?
その人は私の顎を掴んだ。力強く顎が折れてしまうにではないかと思うほどだった。
私はその瞬間、意識がはっきりと戻った。
私の目の前にはこの不穏な空気をまとったお父様がいるのだろう…。
私は強く言葉で威圧をかけると、彼はひゅ〜ひゅ〜と口笛を鳴らしながら私から手を引いた。
お父様の言葉に私の心臓が大きく脈打つ。
幼少期に見た、お父様の拳がお姉さまに当たり吹き飛ぶ様子が脳裏に思い出される。
私が口答えすると、ばちんと左頬を叩かれた。
私が家にいるときはほぼ毎日叩かれていたから……もう痛いとも思わなくなっていた。
しかし……時が経つと皮膚も忘れるようだ。今はジンジンと叩かれたところが痛む。
私はお父様の言葉を静かに黙って聞くしかなかった。
すると、2人だけだと思っていたのに、別の方向からある人の声が聞こえた。
今まで頼りにしていた人間が…まさか裏切り者だなんて…。
私は知っている名前を聞いて、体がビクんと反応する。
もしかして……助けてくれるのではないかと。しかし、彼も境地に立たされている。
助けてくれるわけがない。
影山の弱々しい声。……聞いていて悲しい気持ちにさせられる。
渋々と出て行くツリメだが、彼はあっと声を漏らし、お父様にこう尋ねた。
バタン…)
ドアの閉じる音が部屋中に響き渡る。
なんとなく、お父様にされることはわかっていた。殴られ、匿った奴らを教えろというのだろう。
私は何をされても、彼らのことは決して口に出さないと決意した。
彼らはもう私と無関係だ。
私のことを忘れて生きて行くことが彼らの最善の策だと信じてここまで来た。
今までありがとうーーーー。
さようなら。