私は彼と一緒に歩き始める。
彼のいう「パン屋さん」に向かうということだった。
そのあと、私と彼は会話をすることなく歩き続けた。
……その最中。私が何か考えていないわけがない。
私はずっと、考え続けていた。お父様のこと……ツリメさんのこと。
……私の距離などの感覚は他の方よりも優っている。私は明らかにおかしい点に気づいた。
もう……5㎞以上歩き続けている。たくさんあちこちの曲がり角を曲がっている。
私は確信した。
彼はお父様の仲間だと。影山と……繋がっているのだ。
急に不安が私を襲ってきた。
…………もう…みんなを守ると言い、出てきたのに。
ツリメさんに勘付かれたらまずいため、どうにかして話をうやむやにする。
すると……角を曲がろうとした途端。
ここで「取ってください」と言ってしまったら、何か…嫌な予感がする。
しかし、彼は私が何も言わなくとも後ろに回った。
私は彼の言葉より、彼の動きが気になっていた。
彼は……何か。ビリビリとした……機械を持っているようだ。
少し空気がピリピリとしているのをうなじあたりの皮膚で感じる。
できることなら、ここから逃げ出したいのに。
でも………逃げたら彼らの安全は保証できない。
私は恐怖をぎゅっと押し殺し、震えた声でこう伝えた。
その瞬間、うなじあたりからビリビリと痺れるような痛みを感じた。
私はそこで記憶が途切れた。私の体は後ろに倒れこむ。それを…彼が優しく包み込む。
そんな彼の心と表情が全く異なるような、声を発した。
そんな寂しげな顔が私の瞼の裏側に残った。
私の記憶はそこまで。彼は何とも言えない表情をし、苦虫を潰したかのように唇を噛み空を見上げていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。