第30話

敵対
728
2022/04/03 06:18
塔ー頂上ー
バタンッ!
屋上の扉が勢いよく開く。
アルメリア
アルメリア
…来ましたか
アルメリアは、ドアの前に立つ魈とディルックに顔を向ける。
2人はアルメリアの隣にへたり込んでいるウェンティを見る。
体の腐敗がさらに進んでいるウェンティは、何の気力もないように俯いているだけだ。普段の彼を知っているディルックにとって、彼のこんな姿にはどこか衝撃が走った。
ディルック
ディルック
お前、そいつに何をした
アルメリア
アルメリア
ああ、少し神の力を借りようと思っただけですよ
アルメリアは不気味な笑みを浮かべる。
魈
…その顔を絶望に変えてやる
魈は槍を構える。
アルメリア
アルメリア
…立ちなさい、バルバトス。あの者達を排除するために…
ウェンティ
ウェンティ
……
ウェンティはゆっくりと立ち上がる。
ディルックの顔色が変わる。
ディルック
ディルック
…もう一度言う。そいつに何をした。
アルメリア
アルメリア
…頭を空っぽにしました。私の命令に従うように…。ラヴの呪いに私の魔力を重ねた鋼鉄の鎖…
アルメリア
アルメリア
彼はもう、私の操り人形にすぎません
ウェンティは顔を上げ、弓を構える。
その顔は、2人が知る彼の顔ではなかった。
魈
っ…。ディルック…といったか。お前はアルメリアの相手をしろ、ウェンティは我がどうにかする
ディルック
ディルック
だか…
魈
凡人の力は神に遠く及ばない
ディルック
ディルック
…わかった。お前に任せよう
魈はウェンティと向き合う。
ウェンティ
ウェンティ
__________
ウェンティは何かブツブツと呟いている。
その時、2人の周りを風の壁が覆った。
魈
…我を逃さないつもりか…
魈はフッと笑う。
魈
安心しろ。我はどこにも逃げ隠れしない
槍を構え、ウェンティに立ち向かう。
風と風がぶつかり合うおとがする。
ウェンティ
ウェンティ
っ…!
ビュオッ!
ウェンティの風が魈を吹き飛ばす。
魈は後ろにのけぞる。
魈
っ…。くそっ、隙がつけない…
ウェンティを苦しめる腕輪を外せれば…。
しかし、相手は神だ。つける隙もなければ、傷つけるのも避けたい。今のウェンティの体は、腐敗が進み、見るのも痛々しいほどにボロボロだ。
ウェンティ
ウェンティ
ヴ…
ウェンティ
ウェンティ
ヴヴヴ……
魈
(うめき声か…)
それは苦しそうで、どこか覚えがあるような様子だ。
ウェンティ
ウェンティ
グルルル…
ビュ!
魈
っ!
ウェンティの風を魈は真正面から受けた。
魈
……
覚えがある。あの苦しみに満ちたうめき声…何度も何度も…
魈
…そうか
魈は槍をしまう
ウェンティ
ウェンティ
ヴヴヴ…ヴァ…グ…
魈
……
魈は苦しむウェンティのもとに歩き寄ろうとする。
ウェンティ
ウェンティ
ヴヴヴ…!
ウェンティは風でそれを阻止しようとする。
しかし、魈は足を止めない。
魈
覚えている…決して忘れたことなどない
魈にとって、いまのウェンティはまるで昔の自分を見ているようだった。
…だからこそ
ウェンティ
ウェンティ
ヴッ…!
魈はウェンティを抱きしめた。
ウェンティ
ウェンティ
ヴヴ…
ウェンティ
ウェンティ
ヴア"ア"!
ウェンティは魈を突き放した。
魈
ウェンティっ…!
魈はめげずにまた抱きしめる。
ウェンティはまた抵抗する。
ウェンティ
ウェンティ
ヴグヴヴヴ!!
痛みに苦しめられている彼を見るたびに、過去の自分を想起する。
だからこそ。あのとき、荻花州で聞いた笛の音を思い出すのだ。
自分を苦しみから救ったあの音を…。
魈
___________
魈はウェンティの耳元で音を奏でる。
下手くそな鼻歌だ。
自分を救ってくれたあの音を…今度は彼を助けるために…
ウェンティ
ウェンティ
ヴヴ………う……
ウェンティの抵抗が止まった。
ウェンティ
ウェンティ
…………
ウェンティ
ウェンティ
……しょう…
魈は手を解く。その時見たのは、目に涙を溜めたウェンティだ。

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