本で読んで知っている事も知らない事もある授業を適度に集中して受け、そして4限。
この時間は実践魔法の授業で、魔法が使えない設定になっているあなたは見学をする事になっていた。
遠い目になりながら喧騒から少し離れた所に座ってあなたはただただ時間が流れていくのを待つ。
考え込んでいた所にいきなり声をかけられ、あなたはビクッと身体を跳ねさせる。
そんなあなたを見てテラコッタの癖っ毛を持つ青年はくくっと肩を揺らした。
何だか引っかかる言い方をする彼にあなたはムッとしながら言う。
向こうではまだ生徒達がマジカルペンを振り魔法の練習をしている。授業中なのに一体なぜこちらに来たのか。あなたが不思議に思いそう問えば、エースはサボりなのはあなたも同じだろ?と笑った。
と、その時、生徒達がいる方からうわー!と叫び声が聞こえた。
エースにそう言われあなたは視線をグラウンドの中央へ向ける。
そこでは、どこかで見た事のあるような生物が火を吹き暴れていた。
狸、という言葉にピクリとその魔物──確か、グリムといったか──の耳が揺れ、そしてその青い瞳がこちらを向いた。
あなたが意思の疎通を諦めかけていたら、「それよりも!」とグリムはあなたの所まで走っていき、そして胸を張ってこう叫んだ。
そしてあなたが魔法を使えないと思っているのに炎で攻撃する。
先生も含めた皆が顔を青ざめさせる中で、あなたは涼しい顔でひょいと炎をかわした。
あなたは狙いを付けるような素振りも見せず火を吹きまくるグリムを一瞥した後、すっと身体を横に向け当たりそうだった炎を避ける。
右、左、と軽い足取りであなたは飛んでくる火の塊をかわしながら、グリムの方へと近づいていく。
グリムの怒りに合わせて、ボウッと炎の勢いが増す。
感情が乱れれば魔法の精度が下がるのは当たり前なのに、と考えながらあなたはその場でくるりとで回り、自分の後ろへ飛んでいく火の玉を見ながら、グリムの頭にポンと手を置いた。
グリムはふなっ!ふなぁっ!と何度も火を出そうとするけれど、そのイメージが具現化する事はなかった。
あなたはそれを見て魔法が成功した事を悟ると、呆れ顔でこう言った。
もちろんこれは嘘だ。グリムにはまだ魔力があるのは、分かる人が見れば分かる。
しかしグリムが今までたくさん火の魔法を使っていたのは事実で、見ていた生徒達はそうなんだ、と見事に騙されてしまった。
グリムはそうあなたを睨むが、あなたから見たらそれはただの可愛らしい上目遣いである。
あなたが動じないのをグリムは悔しそうに見て、そしてハッとある事を思い付いた。
─────────────────────
そして授業後。あなたはグリムと共に学園長室に来いと呼び出しを食らい、ついて来ようとするフロイド達を何とか撒き学園長室に来ると、事のあらましを説明していた。
あなたの腕の中でジタバタと暴れるグリムを押さえながら、「それで、どうします?」とクロウリーに問う。
ちらりとクロウリーに見られしゅんと耳の炎を弱くしたグリムを見ると、(自称)優しいクロウリーは出ていけなどと冷酷な事は言えない。
クロウリーの言葉にグリムはぱああぁっと顔を明るくし、あなたは少し顔を曇らせた。
このいかにも面倒くさい性格をしている狸のお世話をしろと…?とあなたは助けを求めるような視線をクロウリーに送るけれど、クロウリーはどこ吹く風で話を進める。
確かにその話は魔法が使えない者にとっては良い話かもしれない。
しかし残念ながらあなたは魔法が使えるのである。しかも、その実力はかなりのもの。
なのでここは遠慮などせず断ってしまおうとあなたは口を開きかけ、グリムに止められた。
グリムが瞳をうるうると潤ませそう見上げてくるものだから、あなたはうっと言葉に詰まってしまう。
そんな、そんな可愛い顔で見られても…と心が揺れている所にクロウリーからこの一言。
結局あなたはグリムの可愛さとクロウリーの圧とお金に折れたのであった──。
* * *
どうも、朝からこんな事やってます、カイです。
今回はエースくんとグリムが登場しましたね!グリムのイラスト地味に難しかったです…。
…えっ?もう1人のマブはどこ行ったんだって?これから出てきますよ(きっと)
今回オクタのオの字もありませんでしたけど、次回はむしろ監督生とオクタしかいないぐらいですから。まぁこの話と足して2で割ればちょうどいいでsy(((
それではまた。バイバイッ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。