あなたが朝ご飯を食べ終えてから、クロウリーはこれからあなたがどうしていくかの話を始めた。
クロウリーにそう言われ、何だ、そんな事か、とあなたは安心した。
あなたが元の世界でやっていた“仕事”に比べれば全然楽だ。
クロウリーはあなたの返事を聞き、ニコリと笑った。
────────────────────────
そして翌日。
今あなたは周りでは友達と楽しく会話しながら登校するというザ・青春のワンシーンなのに自分はボッチで掃除をするとかいう罰ゲームじみた状況に立たされている。
あなたは心の中でそうごちながら、サッサッと箒で道の端の方、石像が並んでいる辺りを掃く。
紅葉が始まり落葉し始めるにはまだ早い時期だが、落ち葉はちらほら落ちており、あなたはそれらを目立たない位置に集める。
チラチラと好奇の目を向けられ、ヒソヒソと妙に気になる音量である事ない事言われると、どうにも気になって掃除が手につかない。
あなたが俯きはぁ、とため息を吐いていたら、地面にぬっと影が差した。
あなたが渋々、といった様子で振り向けば、そこには耳の生えた人間────いや、獣人があなたの予想通り3人立っていた。
皆あなたよりずっと身体が逞しく、魔法が使えないという状況ではあっという間に打ちのめされてしまうのが目に見えている。
ニヤニヤと笑う獣人達に色々言われ、あなたが苛立ち始めバレない程度に魔法使って嫌がらせしてやりましょうか、と思っていた時に、その人は現れた。
あなたはヤバい空気にいち早く敏感に気付き、咄嗟にフードを被り声のした方────獣人のいる方に背を向けその場にうずくまる。
もし何かあっても即座に逃げられるよう半ばクラウチングスタートみたいな姿勢でしゃがんだあなたを、獣人はただ変人を見る目で見、そして後ろを振り返る。
獣人達が上手い具合にフロイドの気を引いてくれているので、この隙に逃げてしまいましょう、とあなたは考え、足音を出来る限り忍ばせて、でも素早くこの場から去ろうとする。
だが。
あなたは大事な所でやらかしてしまう星の元にでも生まれたのだろうか。石畳の段差につまづいてしまい、転び……そうになったところを、何とか受け身を取り地面と仲良しこよしする事態は避けられた。
しかし、もちろんそんな目立つ動きをしていればバレるというもので。
あなたは今度は2m近くある先輩と仲良しこよしする事態を避けるために、近くにあった茂みに飛び込んだ。
しかしフロイドが一度狙った獲物を逃すわけが無く、あなたが逃げていった方を見据え、長い脚で茂みをまたいだ。
そしてフロイドを少し離れた場所から見守っていたアズールとジェイドはその急展開に目を見開く。
それを聞き、アズールとジェイドはさっきとは別の意味で目を丸くし、そして顔を見合わせニヤリと笑う。
この声があなたに聞こえなかったのはあなたにとって良かったのか、それとも悪かったのか…。
────────────────────────
あなたが木の枝に掴まり太い木の根を飛び越えながら半ば叫ぶようにそう言えば、フロイドはあなたの後に続き木の根を軽くジャンプし乗り越えそう返す。
さっきから2人は付かず離れずの距離を保ちながら、足場の悪い森の中を駆け回っていた。
そんな事を割と真面目に考えながら走っていたら、ふと前方に新たな気配を察知し、あなたは停止し視界の左端にフロイドが、右端にこれから現れるであろう人達が映るような場所に立つ。
視線は固定したまま、ゆっくりと後退し無防備な背を壁代わりになりそうな木にくっつける。
3人に自己紹介されたあなたはとりあえず自分の痛い所を容赦なく突いてきたフロイドに軽くキレ、そしてこれは僕も名乗れという事なのでしょうか…と考える。
あなたは割と失礼な印象を抱きながら、さてどうしたものかと考える。
そして、かなりひどい作戦────いや、作戦とも呼べないものを思い付いた。
あなたが半ばからかうようにそう言い、フロイドが激昂し冷静さを失った所で軽く砂埃を巻き上げ目くらましでもしてからテレポートでもしようと逃げる算段を立てていたら、次に口を開いたのはフロイドではなく、アズールだった。
闇の鏡の前で名乗って以来名乗った記憶の無い、あなた本人すらよく覚えていなかった名前を言われ、あなたは首を傾げる。
が、アズールの自己紹介を思い出し、あぁそういう事かと納得する。
えっそれは紛れもない本名なんですが?とあなたは思ったが、そう勘違いしてもらえるのは好都合だろうと思い、訂正はしない事にした。
だがもちろん肯定もしない。あなたはただ黙っている。
そう言いながら、ジェイドはあなたの方に近づいてくる。
しかし、あなたが動く気配はない。
さすがにおかしいのでは…?と3人が思い、あなたの反応を窺おうと意識をあなたに向けた瞬間、あなたは待ってましたと言わんばかりに口を開く。
あなたがそう唱えた瞬間、あなたを中心として突風が吹き、周囲の砂や枯れ葉を巻き上げた。
それらが目に入らないように、と反射的に3人が目を閉じたのを確認し、あなたは準備していたもう1つの術式を発動する。
ふわりと自分の身体が浮いた心地がし、あなたはそれに身を委ねそっと目を閉じた。
────────────────────────
* * * * * * *
皆さんこんにちは、絶賛期末テスト中のカイです。
勉強しろって?そんな悲しい事言うなよ…()
今日音楽と理科と技家のテストで頭使ったしいいじゃないですか…。
それより、ようやくオクタの3人とあなたが絡みましたね。いやぁ、長かった(それ主にお前のせい)。
今はまだ恋愛要素ありませんけど、これから進んでいきますんで、多分。ハイ。
ところで皆さん知ってました?双子の名字の“Leech”って英語でヒル(血を吸うヤツ)って意味があって、そこから転じてヒルのような人、高利貸しっていう意味もあるんですよ。高利貸しってあれですよ、法外な金利で金を貸し付けるヤツ。いわゆる闇金ですよ。違うかもしれんけど←
これ辞書で見た瞬間「あぁ~!なるほど、だからあいつらリーチなのか!!」って思いました。
ちなみにあなたの名字“Alias”(これで“エイリアス”って読みます。)も偽名って意味なんですよね。なんか辞書ペラペラしてたら見つけて「おっこれ響きいいな」って思って採用しました()
…無駄話はこれくらいにしますか。
では次の話で。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。