夢を見た。
とても恐ろしい。
誰だろうか。
大切な誰かが、大切な誰かを殺す夢。
大切な人が、人を殺した。
大切な人が、人に殺された。
とても悲しく複雑で、とても、残酷な夢。
忘れよう。そう、忘れるんだ。
·
朝御飯を食べ終え、ゆっくり情報番組を見ていた。
“次のニュースです。一週間前、東京都大田区に住む、4歳の〇〇ちゃんが誘拐された事件で...”
このところ世間を騒がしている幼女誘拐事件のニュースが流れて来た。
女の子の遺体が見つかったとか。
もしかして二人も私の命を狙っているかも...
なんてね。
二人は歌番組の収録とバラエティー番組のロケで、夕方まで帰ってこない。
すぐ帰ってくる。
少しだけ。少しだけなら。
大丈夫でしょ。
お金を持って、切符を買って、電車に乗って、、、
片道2時間半
インターホンには“佐々木”と雑に書いたふせんが貼ってある。
追い出されてはないんだ。
いるかな、
ピンポーン
いないか...
ガチャ
あれ、開いてる...?
靴はあるんだけど...
あれ、部屋、片、づけたんだ、、。
あんなに散らかってたのに、、。
どこにもいないな。
あとどっか見てないとこあったっけ
お風呂か
死んでいた。
湯船の中で。
手首には明らかに深い切り口と、以前より、圧倒的に増えた傷。
今朝の夢と同じだ。
大切な人が、人を殺した。
大切な人が、人に殺された。
お母さんが、お母さんを殺した。
お母さんが、お母さんに殺された。
誰も、憎ましてはくれない。
優しい母らしい、死に方だ。
風呂場の片隅に、小さなメッセージカードがあった。
一言。たった一言だけ。
“ごめんなさい”
と記してあった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!