第15話

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2021/08/20 06:19
あっさりと別れを告げて賢二郎くんが喫茶店の中に入っていく。




彼が何を言ったのか分からない。




けれど聞き返しても何も言わないということは、そこまでも重要なことではないのかもしれない。





坂をゆっくりとおりていく。途中で前方から自転車に乗った男子中学生は、私が卒業した同じ制服を来ていた。



すれ違った瞬間途切れ途切れに電子音が聞こえた。ヘッドホンが漏れていることにきがついていないみたいだ。




現実逃避をしたくて訪れたこの場所は、誰かにとっての日常なのだ。




家に帰れば、先程の暖かな気持ちが少しずつ温度をなくしていく。





お父さんもお母さんも幸せそうに笑っているけど、私は会話に入れずその背中を少し離れた場所から眺めていた。




大きなお腹を擦りながら名前は何にするかと楽しそうに話しているお母さん。今のお父さんと再婚して、初めてさずかった命はお腹の中ですくすくと育っている。





その子が産まれたら、私はこの家にとって邪魔になるかもしれない。今のお父さんにとって、私は血の繋がらない別の人との子供だ。





今のお父さんが優しい人だということはわかっている。私のことを、嫌っていないのも伝わってくる。けれど話す時はぎこちなく、上手く会話が続かない。再婚してからはお母さんも私に気を使ってくれている気がする。






実際、私がいない時の方が2人は楽しげに声を上げて笑っていた。





私がいる時は、そんなふうに笑ったりしないのに。





既に邪魔者なのかもしれない、と思うと話しかけられても上手く笑えなくなってしまう。






家にいると時々何かが胸に、突き刺さり、どろりと苦くて冷たい感情が溢れてきそうになる。きっとこれは、学校の件とは違ったまた別の感情だ。




逃げるように階段を上がり自分の部屋に駆け込む。そして深い呼吸を吸う



しばらくして息苦しさが消えてきた。手を胸に当て、自発的に吸って吐いてを繰り返した。




そういえばあの喫茶ででは息苦しさを感じなかった。どうしてだろう。いきなり賢二郎くんに、迷っているなら帰れと言われた時は腹が立ったけれど、あの後は嫌な気持ちにならなかった。





むしろ、喫茶店の人たちと話してみたかった。たどり着いたのは偶然だったけど、行ってよかった。久しぶりに誰かとすごして楽しいと思えて、自然と笑っていた。





ベットに寝転がり、大の字になり天井を見つめる。ウトウトしたがまだ眠りたくはない。お風呂のことや明日の準備なとやらなくちゃいけないことが脳裏を去来する。けれどそれよりも、ただ単純に朝になって欲しくない。





この暖かい気持ちのままずっといたい。





そしたら、あのいきの詰まる場所に行かなくて済むのだから。

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