それからは至って平凡に過ごした。そして、気付いたら大学卒業が間近になっていた。今日は、俺とジョジョが所属しているラグビー部の引退試合の日である。
当然だが、あなたに「是非見に来てくれ」と頼んだ。あなたが見てくれていると思えば、全力でプレー出来るからだ。
試合開始直前、「用を足しに行く」とそれらしいことを言って少し部室から抜けた。理由?そんなもの、あなたに会いたいからに決まっている。
暫く歩くと、エリナと一緒にやって来たあなたが目に入った。なんだかいつもより洒落た服を着ていて、複雑な気分だ。
大股であなた達の元に歩む。周りの奴等より背が高い俺は目立つらしく、2人はすぐに俺に気付いた。
そう言いながら大きく手を振るあなた。そんな行動にすら愛おしさが込み上げて、俺はあなたの元まで走った。
あなたは、俺が来るなりパッと笑顔を浮かべて「頑張ってね!」と言う。やっぱり、そこらの奴の応援とあなたの応援とでは何もかもが違う。
あなたは、ゴソゴソと鞄を漁り始めた。何かあるのだろうか。すると、あなたは鞄から水筒のようなものを2本取り出して、俺に手渡した。
そう微笑みながら言うと、あなたは嬉しそうに頷いて「うん!」と言う。あなたのこの子供っぽさがまた可愛い。
そこらの奴だったら間違いなく嫌悪を抱いていたと思うが、あなたのこの話し方や態度に嫌悪なんて微塵も感じなかった。
寧ろ、初めてあなたに出会った時の俺に「何故あなたの魅力が分からないのだ」と言って殴ってやりたいくらいだ。
少しくらい良いだろうと、ここぞとばかりにあなたを抱き締めた。最近はあまりあなたに触れられていなかったから、ここのところあなた不足だったのだ。
ビックリしたあなたは小さく悲鳴を上げたが、すぐに腕を回して、背中を優しくトントンと叩いてくれた。全く、恋人でもない男にそんなことをして良いのか?警戒心が無さすぎる。
それでも、ジョジョ以外の奴にもそう言う風に接してくれるあなたが、俺は何より好きだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。