その日の夜、俺はあなたの家にあったあの大きなスーツケースが気になって仕方なく、なかなか眠りにつけなかった。
ただのスーツケースじゃあないか、と誤魔化そうとするがどうしても気になる。何故か分からんが俺にはあなたが何かを隠しているように見えるのだ。
考えてみればあなたは今朝から何やら嘘をついているように見える。朝から様子が可笑しく、聞いてみれば「内緒」としか言わない。確実に何かを隠している。絶対。
あんなスーツケース、出す機会は本当に少ない。やはり俺は「あなたがどこかに、しかも長期間旅行にでも行くのではなかろうか」と考えてしまう。
「もう眠れないのでいっそのこと開き直って今夜は朝が来るまで起きていようか」とすら考えながらなんとなく窓の外を見た。俺はそこで奇妙な光景を見た。
真夜中なのにあなたの家の明かりがついていた。何故だ…?普段はこの時間帯にはあなたもすっかり眠って家の明かりも消えている筈だ。
不自然に思いながら見続けていた時、俺は更に衝撃的な光景を目の当たりにしてしまう。思わず目を疑った。
見知らぬ男があなたの家の前に来たかと思うと、颯爽とあなたの家のドアをノックし、笑顔で出てきたあなたに迎えられていたのだ。俺は一気に腹がムカムカするのが分かった。
誰だ、誰なんだその男は。俺はあなたにジョジョ以外の男友達がいるなんて聞いたことないぞ。もしかしたらあなたと関係があるのかもしれんが相手は男だぞ?そんな易々と家に入れても良いのか?
あなたのあまりの無防備さに呆れながらその様子を見るしか出来なかった。流石に今から外に出ると目立つ。万が一あなたに見られたら少し厄介だ。
しかしやはり腹の虫が収まらない。俺は今非常に腹が立っている。正直「俺は好きな人に対してここまで独占欲が強かったか」と驚いているくらいだ。
もう、この際だから言ってしまうが、まだ付き合っている訳でもないあなたに対して「お前は俺のものだろ」と考えてしまう。
付き合ってすらいないのにこんなことを考えても良いのか?いや、もう考えずにはいられない。もう俺はかなりあなたに惚れ込んでいるようだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!