それはどう考えても言いたくなかったと言える。何せあの町は兎に角治安の悪い町だから、あの町からやって来た人は酷い差別を受けるだろう。
あなたはそれを恐れて言おうとしなかったのかもしれない。俺も貧乏だったから昔はもっと汚い町に住んでいたがあの町は比べ物にならない。
きっとそれで差別を受けていたのではなかろうか。あなたは何の感染症も持っていない健康な人だと思うが、あの町出身と言うことで持ってもいない感染症を持っていると扱われてきたのだろう。
だからさっきはあんな反応をしたと言うことか?自分が汚いと思っているから俺に触れられた時あんな風に泣きながら言ったのか?俺は全く嫌じゃあなかったぞ。
兎に角あなたは俺から差別的な言動や行動を受けることを恐れてそう言ったわけだな、漸く分かった。あれは見た感じ精神的に相当来ているだろう。
あなたの負った傷は相当大きいはずだ。俺は今すぐにでもあなたを抱き締めて「俺は決してそんなことは思わない」「あなたはあなたであって、生まれた町なんて気にしないぞ」と言ってあげたい。
急な"あなたに会いたい"と言う衝動に駆られた俺に味方するようにあなたはやってきた。泣き晴らしたばかりなのか目元が真っ赤だ。肌が白いから余計に目立つ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。