第18話

メイド服姿、可愛いって言われたけど……
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2019/08/07 01:51


 暑さも過ぎ去り文化祭準備が始まった頃。




 ……私はメイド服を着せられていた。

安藤由香
やっぱりメイド服なら、ほのちゃんが着てくれたミニスカのほうが可愛い?
女子生徒1
けど、由香ちゃんが着てくれてるロングスカートも雰囲気あっていいよね!


 膝上ほどの短いスカートに、胸元が少し開いたブラウス。可愛いけど、露出度の高いメイド服は、あまりにも恥ずかし過ぎた。

東ほのみ
東ほのみ
(み、みんなに見られてる!! 安藤さんがロングスカート着るからってなんで私までーー!!)


 クラスで執事・メイド喫茶をやることになったが、肝心の衣装が決まらず、メイド服の試着会が始まっていた。

 私は皆にジロジロと見られる恥ずかしさに我慢できず、「うるさい!」と叫び教室を飛び出したい衝動に駆られている。

東ほのみ
東ほのみ
(我慢我慢我慢我慢!!)




     コンッ コンッ




 私が必死に耐えていると、教室のドアがノックされ道人くんが入ってくる。

綾崎道人
綾崎道人
平先生。すみません、ちょっといいですか?
東ほのみ
東ほのみ
みっ……!?


 タイミングの悪い道人くんの登場に驚いた私は、思わず名前を呼びそうになり口を勢いよくおさえた。

 そのせいで私の格好は見られてしまい、道人くんは面食らったように静止している。

宮原唯月
宮原唯月
丁度いいじゃん。綾崎先生にでも選んでもらえば?


 その一言にクラス中の女子が顔を上げて道人くんを見る。

綾崎道人
綾崎道人
なんだ?
東ほのみ
東ほのみ
(いやーーー!! 道人くんに見られただけでも恥ずかしかったのに、選んでもらうとか!? なに言ってくれてんの、宮原くん!?)
安藤由香
それいいね! 綾崎先生、私とほのちゃんのどっちがいいですか?
東ほのみ
東ほのみ
(その聞き方もやばいよ、安藤さんーー!! メイド服の話って分かっても「安藤さん」って言われたら辛い!!)
綾崎道人
綾崎道人
メイド喫茶……か


 道人くんに頭から足の先まで見られ、心臓がうるさいくらい暴れている。




  ド            ド
   キ   ド        キ
        キ    ド
     ド        キ
      キ   ド      ド
  ド        キ      キ
   キ




 耐えきれなかった私が教室の後ろのドアに走り出そうとした瞬間、手首を掴まれてその場から逃がしてもらえなかった。


 横目で手首の先を辿ると、机に肘をついて席に座っている宮原くんがイジワルな笑みを浮かべていた。

東ほのみ
東ほのみ
(こいつぅうう!!)


 そんなことを思っている間にも、道人くんは私と安藤さんを見比べている。

綾崎道人
綾崎道人
そうだなぁ……
東ほのみ
東ほのみ
……


 私は精一杯の抵抗で視線を逸らし続けた。

東ほのみ
東ほのみ
(早く何か言ってよ……)
綾崎道人
綾崎道人
東さんのメイド服の方が可愛いんじゃないか?
東ほのみ
東ほのみ
ッ!? ……ど、どうも
綾崎道人
綾崎道人
けど、人には見せられないな
東ほのみ
東ほのみ
……へ?


 その言葉と共に、宮原くんに掴まれていた私の手首が、道人くんによって解かれた。

東ほのみ
東ほのみ
(今のって……)




   ドキッ ドキッ ドキッ



安藤由香
えー、なんで? こんなに可愛いのに!
綾崎道人
綾崎道人
はぁ、あのな、親御さんや近隣の方、学外の人達が来るんだ。制服より足を露出させるものはだめだ。ということで、安藤さんのメイド服な
東ほのみ
東ほのみ
(そ、そういう意味か!!)
安藤由香
もう! 綾崎先生ってこういう時厳しいんだからー。可愛いと思う方選んでほしかったのに
綾崎道人
綾崎道人
そもそも、なんで俺が選ぶんだ……。さぁ、決まったんだから早く着替えて来なさい。東さんもね
東ほのみ
東ほのみ
あっ……、はい!
東ほのみ
東ほのみ
(だ、誰にも見せたくない……とか、そういう事かなって一瞬思っちゃったじゃん……)
安藤由香
じゃ、もっかい着替えてこようかー……って、ほのちゃん? 大丈夫? 顔赤いよ
東ほのみ
東ほのみ
え!? ちょ、ちょっと暑いだけ!!
安藤由香
こんなに涼しくなってきたのにー? しかも、ほのちゃん今結構薄着なのにー
東ほのみ
東ほのみ
だ、大丈夫だってー! 着替えだよね? 行こう!


 私は今度こそ我慢が出来なくなり、教室を飛び出した。


 更衣室に逃げ込み、素早く制服に着替え直す。










東ほのみ
東ほのみ
はぁ、……変な言い回し、しないでよね


 安藤さんがいっこうに入って来ないことを気にして廊下を覗こうとすると、ドアの横には道人くんが立っていた。

綾崎道人
綾崎道人
変な言い回しなんてしてないけどな
東ほのみ
東ほのみ
わぁっ!? な、ななななんで!? 安藤さんはっ……
綾崎道人
綾崎道人
安藤さんは今教室で写真撮られてるよ
東ほのみ
東ほのみ
そ、……そうですか
綾崎道人
綾崎道人
……学生より、大人の方がいやらしい奴は危ないからな
東ほのみ
東ほのみ
へ?
綾崎道人
綾崎道人
そんな簡単に、肌を露出しないこと。いい?


 口調は先生モードの道人くんだけど、言っていることは溺愛してくるときのものだった。

東ほのみ
東ほのみ
はい。……あの、それって――!


 そう言いかけた時、道人くんが私の方へと迫ってきた。

 急接近しそうでドアを閉めようとすると、ガッと手で押さえられてしまう。


 道人くんの吐息が耳にかかるくらい唇を寄せられる。

綾崎道人
綾崎道人
そんな可愛い格好、俺といるときだけにして
東ほのみ
東ほのみ
……わ、わかったから! ……離れてっ!


 精一杯、押し返すけれど、道人くんはびくともしなかった。


 気が済んだのかゆっくりと離れていくと背を向けられ、道人くんは歩いて行ってしまう。

東ほのみ
東ほのみ
……もしかして! ……この前から、嫉妬……してる?
綾崎道人
綾崎道人
……


 離れていく背はその場で止まったけれど、こちらを向いてはくれなかった。











綾崎道人
綾崎道人
譲れるような気持じゃないってわかったからね




 それって……。



東ほのみ
東ほのみ
(そ、それってやっぱり!!!!)
東ほのみ
東ほのみ
みちっ――!
綾崎道人
綾崎道人
早く戻るんだよ


 道人くんは私の呼びかけを遮って、廊下の曲がり角へと消えていった。

東ほのみ
東ほのみ
(あたしの勘違いじゃないってこと、だよね?)


 緊張が解けて、けど、頭はちゃんと働かず、私はその場に座り込んで道人くんの消えていった廊下の先をボーっと見つめた。







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