暑さも過ぎ去り文化祭準備が始まった頃。
……私はメイド服を着せられていた。
膝上ほどの短いスカートに、胸元が少し開いたブラウス。可愛いけど、露出度の高いメイド服は、あまりにも恥ずかし過ぎた。
クラスで執事・メイド喫茶をやることになったが、肝心の衣装が決まらず、メイド服の試着会が始まっていた。
私は皆にジロジロと見られる恥ずかしさに我慢できず、「うるさい!」と叫び教室を飛び出したい衝動に駆られている。
コンッ コンッ
私が必死に耐えていると、教室のドアがノックされ道人くんが入ってくる。
タイミングの悪い道人くんの登場に驚いた私は、思わず名前を呼びそうになり口を勢いよくおさえた。
そのせいで私の格好は見られてしまい、道人くんは面食らったように静止している。
その一言にクラス中の女子が顔を上げて道人くんを見る。
道人くんに頭から足の先まで見られ、心臓がうるさいくらい暴れている。
ド ド
キ ド キ
キ ド
ド キ
キ ド ド
ド キ キ
キ
耐えきれなかった私が教室の後ろのドアに走り出そうとした瞬間、手首を掴まれてその場から逃がしてもらえなかった。
横目で手首の先を辿ると、机に肘をついて席に座っている宮原くんがイジワルな笑みを浮かべていた。
そんなことを思っている間にも、道人くんは私と安藤さんを見比べている。
私は精一杯の抵抗で視線を逸らし続けた。
その言葉と共に、宮原くんに掴まれていた私の手首が、道人くんによって解かれた。
ドキッ ドキッ ドキッ
私は今度こそ我慢が出来なくなり、教室を飛び出した。
更衣室に逃げ込み、素早く制服に着替え直す。
安藤さんがいっこうに入って来ないことを気にして廊下を覗こうとすると、ドアの横には道人くんが立っていた。
口調は先生モードの道人くんだけど、言っていることは溺愛してくるときのものだった。
そう言いかけた時、道人くんが私の方へと迫ってきた。
急接近しそうでドアを閉めようとすると、ガッと手で押さえられてしまう。
道人くんの吐息が耳にかかるくらい唇を寄せられる。
精一杯、押し返すけれど、道人くんはびくともしなかった。
気が済んだのかゆっくりと離れていくと背を向けられ、道人くんは歩いて行ってしまう。
離れていく背はその場で止まったけれど、こちらを向いてはくれなかった。
それって……。
道人くんは私の呼びかけを遮って、廊下の曲がり角へと消えていった。
緊張が解けて、けど、頭はちゃんと働かず、私はその場に座り込んで道人くんの消えていった廊下の先をボーっと見つめた。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。