道人くんと宮原くんが体育館を出て行く時ーー。
道人くんと目が合った。
彼は私を見つめたまま少し止まると、切なげな瞳で優しい笑みを浮かべる。
ズキンッ
初めて向けられたその表情は私の胸を締め付けた。
ズキンッ
私は道人くんのことが気になり、部活が再開しても気持ちがザワつき集中できずにいた。
足元に転がってきたボールを踏みつけ、バランスを崩して体は後ろに倒れていく。
反射的に目をぎゅっと閉じて身を強張らせていると――。
ボフッ
いつの間にか帰ってきていた道人くんに後ろから抱き留められていた。
頭上から私の様子を確かめてくる道人くんとの距離があまりにも近くて、徐々に恥ずかしさが膨れあがり顔に熱が溜まる。
ドキッ
ドキッ
けど、道人くんの腕の中は心地が良い。
私は道人くんにだけ聞こえる声で囁いた。
しかし、その一瞬、彼の表情が強張った。
道人くんは視線をそらし、抱き留めていた私を立たせて距離を取った。
その後、道人くんと目が合うことはなかった。
やっぱり、避けられている。
私が悩んでいる間に練習は終わった。
朝練の準備も終えて部室を出ると、宮原くんがイヤホンを付けて壁際に寄りかかっていた。
私に気付くと片耳のイヤホンを外して近寄ってくる。
宮原くんは自然に私の手を取り、少し強く、逃げられないように繋いで歩き始める。
初めて男の人と繋いだ手は緊張で汗ばみ、振り払おうとするがゴツゴツとした大きな手は全く放してくれそうにない。
しかし、宮原くんはそれ以上なにか恥ずかしいことをするわけでもなく、教室に着くと真剣に勉強を始める。
私も教科書とノートを広げるが、頭の中は道人くんのことでいっぱいだった。
頭をガシガシと掻いて宮原くんはそう言い、切なそうに顔を歪める。
ズキンッ
私を見つめるその瞳がどこか道人くんに似ていて、また胸が痛んでしまう。
ここにいてはいけない。
そう、直感で思った。
その場を逃げようと勢いよく立ち上がった時――。
ガタンッ!!
宮原くんが私の手を引き二人で床に倒れてしまう。
ぎゅっと閉じていた目を開けると、私の上に覆いかぶさっている宮原くん。
彼の片手は私の頭に回され、もう片方を床について体を支えている。
まるで押し倒されているような体勢、目の前には私に熱い眼差しを向ける宮原くん。
体は熱を溜め込み、湯気が出てしまうのではないかと思うほど熱い。
呼びかける宮原くんの声は私の頭まで届かず、頬をぺチぺチと叩かれる。
私が思考を停止させようとしていると、廊下から足音が聞こえてきた。
教室のドアが静かに開けられ――。
道人くんは私と宮原くんを見て少し眉間にしわを寄せて顔を逸らせようとした。
彼に見られてしまったショックは大きく、瞳から涙が零れた。
そんな私と道人くんの視線が重なった時、彼の瞳は激情したように色を変える。
☆
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。