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第2話

この胸の痛みは……


「東さん、俺と君は学校では先生と生徒。幼馴染は学校外での事だ。くん付けなんて言語道断、特別扱いはしないから。わかったら帰りなさい」


 まるで拒絶しているような彼の言葉が頭の中でこだまし、妙な胸の痛みを感じた。

 誰もいない家に帰り、日も差し込まない暗いリビングでソファに倒れ込む。

東ほのみ
東ほのみ
急に……なんなのっ


 汗ではりつくYシャツの不快感に苛立ちは増し、ため息が漏れてしまう。

 ふと、廊下でぶつかった地味なメガネ男子が脳裏に過った。

東ほのみ
東ほのみ
(……あの子に手帳を拾ってもらった時、なんで普通に話せたんだろう?)


 今までは、異性に優しくされたら誰にでも天邪鬼になっていた。それが何故か彼だけは……。



      ガチャッ


綾崎道人
綾崎道人
お邪魔します。……ほのみー?


 私の苛立ちの原因である道人くんが帰ってきたようだ。

東ほのみ
東ほのみ
(なんでわざわざうちに来るかな。
出迎えたりしないんだから)


 出迎えるつもりなんて全くない。

 けど、心のどこかで、早くいつものように声をかけてほしいと、……願っている私がいた。

綾崎道人
綾崎道人
ちゃんと帰ってきてたんだね。
ほのみのお母さん、今日は帰りが遅いらしいから、一緒にご飯食べよう
東ほのみ
東ほのみ
いらない。一人で食べるから、
さっさと帰ってよ
東ほのみ
東ほのみ
(……あたし、なんでこれくらいの事も普通に答えられないの?)
東ほのみ
東ほのみ
(これじゃ嫌われていく一方だよ)


 気持ちと言葉が比例することはなく、そんなバカな自分に涙が溢れそうだった。

 クッションに顔をうずめると、キッチンからゆっくりと歩み寄ってくる足音が聞こえる。

 足音は私の目の前で止まり、ギュッと背中に優しく腕が回される。

東ほのみ
東ほのみ
(だ、抱きしめられてるっ……!)
綾崎道人
綾崎道人
今日はごめんな。
落ち込ませちゃったね


 耳元で聞こえる声に胸は高鳴り、抱えているクッションさえも通り越して鼓動が伝わってしまいそうだ。

東ほのみ
東ほのみ
……なんで、……あんな冷たかったの?
綾崎道人
綾崎道人
ほのみのためにも公私混同は良くないんだよ。学校は協調性を求められる場だから、規則は守らないとね
東ほのみ
東ほのみ
そんなのわかってるよ!


 けど、あんなに冷たくする必要はなかったんじゃないかと、不満は消えない。


 すると、彼の唇が耳元に寄せられ吐息がかかる。

綾崎道人
綾崎道人
寂しかった?
東ほのみ
東ほのみ
~~っ!?
そんなわけないでしょ!!!
ちょっと、もう離れて!


 彼を押しのけようとすると、頭を優しく一撫でされる。

綾崎道人
綾崎道人
ははっ、そうだね。まぁ、俺もいつも通りだとほのみを可愛がっちゃうから、学校でこんな風には話せないかな
東ほのみ
東ほのみ
もう、わかったから! ご飯作って!
綾崎道人
綾崎道人
じゃあ今日は春キャベツのパスタにしようか。待ってて
東ほのみ
東ほのみ
いいよ。お腹空いたから私も作る
綾崎道人
綾崎道人
え、はじめての共同作業?
東ほのみ
東ほのみ
調子乗んないで!
道人くんの車に鍋投げつけるよ!?
綾崎道人
綾崎道人
ははっ、ごめん。
じゃあ、作ろっか


 胸が痛かった理由ははわからないままだけど、

 やっぱり、いつも通りの道人くんの方が安心する。





       『次の日』





 朝早く目が覚めた私は、まだ誰もいない教室で一人悩み続けていた。

東ほのみ
東ほのみ
(あんなギャップありまくりの先生モード道人くんと、普通になんて話せないよね)
東ほのみ
東ほのみ
(よし! 無視しよう!)


 教室の後ろ扉から、一人の生徒が入ってくる足音が聞こえる。

 新品の上履きのキュッキュッという音が響き、それは私の後ろを通り過ぎて左の席で止まった。

 チラッと覗き見るとそれは明らかに男子で、急な緊張感に体が固まってしまう。

東ほのみ
東ほのみ
(は、話しかけなきゃ!)
東ほのみ
東ほのみ
(道人くんの事がどうであれ、天邪鬼脱却の目標は変わらないんだから!)


 爽やかな笑顔を顔に貼り付け、左を向いて手を小さく振る。

東ほのみ
東ほのみ
お、おおおおおはよう
東ほのみ
東ほのみ
(どもりすぎぃーー!!)
???
???
ん? おはよう。……あ、昨日の天邪鬼の人
東ほのみ
東ほのみ
えっ!?!?


 隣には昨日の地味なメガネ男子。

 彼の意外すぎる言葉で、貼り付けた仮面は容易く剥がれ落ちた。

東ほのみ
東ほのみ
(なんで知ってんの!?)
東ほのみ
東ほのみ
なっ……、はっ?
???
???
もしかしてバレたらまずかった?
けど、それなら手帳に書かない方が良いよ
東ほのみ
東ほのみ
……あぁあああーー!!!!!
???
???
うるさ


 彼が一言そうぼやくと、私の口元に甘い香りのものが押し当てられた。

東ほのみ
東ほのみ
鈴屋のマドレーヌラスク?
???
???
知ってるの?
東ほのみ
東ほのみ
もちろん!
あたし鈴屋のマドレーヌ大好きなの!
???
???
ふっ、そうなんだ。すっごい嬉しそうに食べるね。もう一個あげようか? ほら


 彼はマドレーヌラスクを私の口元まで持ってきて、「あーん」と言った。

東ほのみ
東ほのみ
っ!? いらない!
東ほのみ
東ほのみ
(誰もいなかったらよかったけど、ほぼ初対面でそんなことする!?)
???
???
あー、天邪鬼ね。まぁ、またほしかったらあげるよ。俺の家、鈴屋だから
東ほのみ
東ほのみ
ま、待って、それはっ……!
えっ!? 鈴屋!?
安藤由香
おはよぉー? なんか今すごい声聞こえたけど大丈夫ー?


 弁解をしようとした時、教室に元気そうな女子生徒が入ってきて言葉に詰まる。

安藤由香
あ、みんな席近ーい!
私、安藤由香あんどうゆかね。よろしくぅー!
東ほのみ
東ほのみ
あたし、あずまほのみ。よろしくね?
宮原唯月
宮原唯月
宮原唯月みやはらゆづき。よろしく
東ほのみ
東ほのみ
(いや、自己紹介してる場合じゃっ!
けど、安藤さんいると話しにくい!)
安藤由香
えー、宮原くん名前かわいいねー! ゆづちゃんって呼んでもいい?
宮原唯月
宮原唯月
よく言われるけど、ちゃん付けはないだろ。俺男なんだけど
東ほのみ
東ほのみ
(意外と気つよっ!)
安藤由香
わー、ごめんー!
ゆづちゃん怒んないでー!
東ほのみ
東ほのみ
(メンタルつよっ!?)





  キーン
    コーン

        カーン
          コーン




担任の先生
おはよー。
今日は副担任の紹介からな。綾崎先生、改めて自己紹介お願いします
東ほのみ
東ほのみ
(えっ!? まさか、道人くん!?)
綾崎道人
綾崎道人
はい。皆さんのクラスの副担任になりました綾崎道人です。俺もみんなと同じ新入生みたいなもんだから、一緒に高校生活に慣れていこう
綾崎道人
綾崎道人
ただし、新任だからって友達みたいに接するなよ。まぁ、よろしく


 大きな拍手と女子生徒の歓声で教室中は大盛り上がり。

東ほのみ
東ほのみ
(私にはあんなに冷たかったのに、皆には優しそうじゃん……)


 ふと、彼と視線が交わった。




     ドキッ




 教壇から見つめる彼。

 知的でクールなスーツ姿の道人くんは、目が離せないほどかっこいい。


  ド            ド
   キ            キ
         ド
          キ 
                ド
    ド            キ
     キ


 昨日和らいだはずの胸の痛みは、道人くんの態度一つで、また疼き始めた。