道人くんは、一直線に私達の元へ駆け寄ると宮原くんの胸ぐらを掴み上げた。
声をかけても道人くんは手を緩めず、宮原くんを鋭く睨み付ける。
しかし、宮原くんは苦しそうに顔を歪めながら、薄笑いを浮かべた。
道人くんは宮原くんを投げ捨てるように放すと、悲痛な表情で私の涙を拭い取った。
体を支えながら立たせてくれると、道人くんは私の荷物を素早くまとめ、手を引いて教室を出ていこうとする。
その手を振り払うことなんてできなくて、それでも宮原くんが心配で振り返ると、苦笑して手を振ってくれた。
私もうまく笑うことなんてできなくて、どんな表情をしているかもわからないけど、小さく手を振った。
廊下は生徒の声一つ聞こえず、私と道人くんの足音だけが響いている。
繋いでいる道人くんの手には力が込められていて、神経はそこに集中し鈍い痛みが心臓にまで広がる。
ズキンッ
避けられていると思っていたから、触れてもらえるだけでうれしいはずなのに……。
すごく痛い。
彼を呼び止めようとしたが、今私の目の前を歩いているのが、道人くんなのか、綾崎先生なのか……わからない。
道人くんは立ち止まると私の手を離し、眉をひそめて心配そうに見つめてくる。
今日、何度も見たその悲しげな表情をどうにか晴らしたくて、私は精一杯の笑顔を作った。
歩き出そうとする道人くんは優しく微笑むが、その瞳にはあの切ない色がまだ残っているように見えて、私は咄嗟に声を出してしまう。
道人くんは目を逸らし言い淀んだあと、私を真っすぐと見つめて苦笑した。
ズキンッ
心臓を抉り取られるような、鋭く重たい痛みが走り息がしづらい。
妹?
やっぱり、道人くんにとって私は妹でしかない?
ズキンッ
手のひらに爪を押し当て、今にも零れそうな涙を必死に堪える。
道人くんと重なり合った視線を逸らすことなく、私は頑張って微笑んだ。
私は道人くんを追い抜かして数歩先を歩き、誰もいない廊下の先を見つめた。
私は逃げるように駐車場まで走った。
後ろから「走るなよ」なんて声が聞えたけど、もう答える余裕もない。
瞳から涙が一筋流れ落ちると、それはとめどなく溢れ続けた。
靴も履かずに昇降口を飛び出し、ぼやけた曇り空を見上げ声を殺して涙を流した。
☆
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。