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第9話

辛くても傍にいたい



 試験期間も終わり、学校は夏休みに入った。




 大きなトランクを二つ持って、両親は玄関を出ていこうとしていた。

ほのみ母
道人くんになら安心してほのみを預けられるからいつも助かるわぁ。けど、夏休みまでごめんなさいね?
綾崎道人
綾崎道人
いえいえ、
旅行楽しんできてください
ほのみ父
ほのみ、本当にいかないのか?
東ほのみ
東ほのみ
夏休みは部活もあるし、……数学が全然できなくて赤点だったの。
だから、補習に行かなきゃ
綾崎道人
綾崎道人
そんな落ち込まないで、ほのみ。
補習は俺が見てあげるから。ね?


 道人くんは、今までのように、いつも通りに、私の頭を撫でた。

ほのみ母
ふふっ、先生と生徒っていうより、
やっぱり兄妹みたいねぇ




      ズキンッ



東ほのみ
東ほのみ
(……また、兄妹か)
ほのみ父
あ、母さんそろそろでないと飛行機の時間が
ほのみ母
そうね! じゃあ、いってくるわね
東ほのみ
東ほのみ
うん、いってらっしゃい。気を付けてね


 兄妹という言葉がまるで呪いのように私の心臓を締め付けた。


 両親が出ていった玄関扉をぼーっと眺めていると、ひょっこりと道人くんが私の顔を覗き込んでくる。

東ほのみ
東ほのみ
わっ!? な、なななに!?
東ほのみ
東ほのみ
(顔近いっ!!)
綾崎道人
綾崎道人
ほのみ、顔色良くないね。体調悪い?


 彼は目線を合わせるように屈むと、前髪をすくうように除けてお互いの額を重ねた。




  ド            ド
   キ   ド        キ
        キ    ド
     ド        キ
      キ   ド      ド
  ド        キ      キ
   キ



東ほのみ
東ほのみ
ちょっと考えごとしてただけだから!! そんな心配しないで!


 私は咄嗟に彼の両肩を勢いよく押して、距離を取った。

綾崎道人
綾崎道人
考え事?
悩みならなんでも聞くよ
東ほのみ
東ほのみ
いいの! 一人で大丈夫だから!!
綾崎道人
綾崎道人
……そっか。朝ごはん何にする?
俺たちも準備して学校に行こう


 あの日以来、私は道人くんに少し触れられるだけで、今までよりも過剰に反応してしまうようになっていた。

 好きだからこそ今までのようにそばにいたいだけなのに、気持ちだけが先走ってうまくはいかない。

綾崎道人
綾崎道人
ほのみー?
朝、ベーコンエッグでいい?
東ほのみ
東ほのみ
あ、うん!
綾崎道人
綾崎道人
学校に行く準備しておいで。
できたら呼ぶから
東ほのみ
東ほのみ
……うん
綾崎道人
綾崎道人
……


 天邪鬼でもできた会話さえ、今はままならない。

 何もなかったように接せられるのが辛かったり、いつも通りにしたいのにできなかったり。



 頭の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられたように、気持ちと考えが追いつかない。















綾崎道人
綾崎道人
じゃあこの公式でプリントの問4まで解いて


 学校に着き数学の補習が始まった。


 ……が、教室には道人くんと私だけ。

東ほのみ
東ほのみ
(まさか私だけだったなんて。こういう時に限ってなんで道人くんと二人きりなの!?)
綾崎道人
綾崎道人
東さん、手止まってるけどわからないところでもあったか?
東ほのみ
東ほのみ
え! や、大丈夫……です
東ほのみ
東ほのみ
(家でも学校でも二人っきりなんて
心臓もたないよ……)
東ほのみ
東ほのみ
(……今はまだ辛いのに)


 テスト前も結局、道人くんのことを考え続けて集中なんてできなかった。

 プリントに書かれた数字を追うけれど、それは暗号のようで全く頭に入って来ない。

東ほのみ
東ほのみ
(なんで!?
ここ、前まではわかってたのに……)


 教壇から刺さるような視線を感じ何とかペンを動かそうとするが、問題は全く解けていなかった。


 痺れを切らしたのか、道人くんはゆっくりと私が座る机へと歩み寄ってきて、目の前で立ち止まる。

東ほのみ
東ほのみ
(こんな問題も解けないなんて、呆れられちゃうな)


 俯いたまま顔も上げられずにいると、ふんわりと優しく頭を撫でられる。

綾崎道人
綾崎道人
ほのみ、また考え事?
暗い顔してるよ
東ほのみ
東ほのみ
……あ、えっ……と


 二人きりだからか、道人くんは家で私を甘やかすときのように優しく喋り始めた。

東ほのみ
東ほのみ
(また、心配させちゃってる……だめこんなんじゃ。いつも通りに……)
綾崎道人
綾崎道人
よし!
じゃあ今日の補習はドライブだ!
東ほのみ
東ほのみ
へっ? ドライブって……
綾崎道人
綾崎道人
まずは勉強できるように気分転換からだよ! ほら、行こう、ほのみ
東ほのみ
東ほのみ
行こうって!!
ちょ、ちょっとまって、どこに?
綾崎道人
綾崎道人
ひ・み・つ


 道人くんは珍しくいたずらっ子のような笑みを浮かべて、少し強引に私を立たせると優しく手を引いた。




 ふと、中学生のころを思い出してしまう。

 一人で天邪鬼に悩んでいた時も、道人くんはこうやって私を元気づけようとしてくれた。



 昔から変わらないそんな彼の優しさに、少し心が落ち着いていく。


 それと同時にこみあげてくる感情。

東ほのみ
東ほのみ
(私きっと、昔から道人くんのことが……大好きだったんだ)


 彼の優しいぬくもりを手放さないように、私はぎゅっと握り返した。