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第4話

縮められない距離


安藤さんに手を引かれながら小走りで道人くんを捜していると、さっきまで遠く感じていた彼の背中が廊下の先に見えた。

東ほのみ
東ほのみ
(まだ、遠い)


 今まで感じなかった道人くんとの距離に気付いた私は、あとわずかな距離さえ縮めたくなってしまう。

東ほのみ
東ほのみ
あやさ――
梅川沙良
梅川沙良
道人!


 曲がり角へ消えていきそうになる道人くんに呼びかけようとした時、彼の視線の先には綺麗な女性が立っていた。

綾崎道人
綾崎道人
あぁ、梅川先生、どうしたんですか?
梅川沙良
梅川沙良
もう!
生徒もいないんだから名前で呼んでよ
綾崎道人
綾崎道人
呼びません。学校なんだからちゃんとしてください
梅川沙良
梅川沙良
真面目なんだからぁ~


 梅川先生という美人な女性は、道人くんの腕に抱き着いたまま一緒に曲がり角へと消えていった。

東ほのみ
東ほのみ
(なに、今の!?)
安藤由香
え、綾崎先生と梅川先生って付き合ってるのかなぁ!?
東ほのみ
東ほのみ
いや、ないでしょ!
綾崎先生そっけなかったし!
安藤由香
えぇ、けど仲は良さそうだったよ!
東ほのみ
東ほのみ
(いや、いつも私をかまってる道人くんが付き合ってるわけないっ!と思いたいけど、わからない!!
あー! あんな人差し置いて話しかけるとか無理だってー!)


 私と安藤さんはお通夜状態で教室へと戻った。

宮原唯月
宮原唯月
何かあったの?
東ほのみ
東ほのみ
え? あー、まぁちょっと? 
巨大な壁に、……ぶち当たったところ
宮原唯月
宮原唯月
ふーん? まぁいいけどさ、今日の放課後空けといて
東ほのみ
東ほのみ
放課後? なんで?
宮原唯月
宮原唯月
バレー部のマネージャーになってもらうから
東ほのみ
東ほのみ
……それ、強制?
てか、宮原くんバレー部なの?
宮原唯月
宮原唯月
もちろん。そう、今一人もマネージャーいないんだよ
安藤由香
なになに?
バレー部のマネージャー?
宮原唯月
宮原唯月
安藤さんも来る? イケメン多いよ
安藤由香
ホント―!? じゃあ行くー!
東ほのみ
東ほのみ
なら、あたしは――
宮原唯月
宮原唯月
東さんは確定だから。
じゃあ、放課後よろしく
東ほのみ
東ほのみ
(なんでよー!!)



 天邪鬼をばらされたくない私は宮原くんに逆らうこともできず、放課後、私たちは着替えて体育館へ向かった。

安藤由香
私もう入部しよっかなー!
東ほのみ
東ほのみ
え、早すぎない!?
まだ部活始まってないけど!
安藤由香
だって!


 安藤さんは、眼鏡を外した宮原くんに視線を移しニヤニヤと笑い、私に耳打ちをする。

安藤由香
ゆづちゃんってイケメンじゃない!?
東ほのみ
東ほのみ
え?……まぁ、意外とね


 そんな話をしている間に集合がかかり、ジャージ姿の道人くんが部員たちの前に立つ。

東ほのみ
東ほのみ
(道人くんバレー部だったの!?)
綾崎道人
綾崎道人
今日はウォーミングアップ終わったら、先輩と新入部員で組んでラリーやっといてくれ。初心者の子には少しずつ教えてあげてな


 久しぶりに見る道人くんのジャージ姿に、思わず見惚れてしまう。

安藤由香
綾崎先生、ジャージ姿もかっこいいね!
東ほのみ
東ほのみ
そう?
あの人のジャージ姿なんてださいだけでしょ
東ほのみ
東ほのみ
(ださいわけないぃー! 大学時代の試合何度も見に行っちゃったほど道人くんのジャージ姿はかっこいい!! 何でそこまで着こなせるの!?)
安藤由香
えー、ほのちゃん辛口ぃ!
綾崎道人
綾崎道人
東さん、安藤さん。
今日はマネージャーで仮入部だよな
安藤由香
綾崎先生! はーい、そうなんです!
東ほのみ
東ほのみ
まぁ、一人もいないって聞いたので
綾崎道人
綾崎道人
ありがとな。
……とりあえず俺の分かる範囲で教えるけど、後で先輩たちにも聞いて
東ほのみ
東ほのみ
(今、目逸らされた? 私とは目合わせるのも嫌ってこと!? 梅川先生とは学校でも仲良さそうだったくせに!)

 
 道人くんのちょっとした仕草に気付けるようになったが、梅川先生の出来事を忘れられず、悪い方向にばかり考えてしまう。

 しかし、仕事内容と場所案内が始まると、たまに私と視線が重なる時、道人くんの瞳はいつもと違い男性っぽさを感じた。

綾崎道人
綾崎道人
で、これで部員の飲み物を作って練習場所に持ってきて。全員分は重いから分けてな
東ほのみ
東ほのみ
え、それスポーツドリンクの粉末じゃなくて「ふりかけ」じゃないですか?
綾崎道人
綾崎道人
え? 誰だここにふりかけ置いてったの。……っ、わるい、これだ


 私と目が合った瞬間、彼はわずかに耳を赤く染めてまた視線が逸らされる。

東ほのみ
東ほのみ
(え、私なんか変なところある?
……体操着、裏表間違えてないよね!?)
綾崎道人
綾崎道人
そ、そろそろ戻るか。ウォーミングアップ終ってるはずだ
東ほのみ
東ほのみ
……? はい







 体育館に戻ってくると、ラリーは終わってスパイク練習の準備が始まっていた。

綾崎道人
綾崎道人
じゃあ二人もボール拾いで入って
東ほのみ
東ほのみ
はい
綾崎道人
綾崎道人
転がってきたのを取ればいいから、怪我しないようにな


 部員たちは列になって並び、一人ずつ助走をつけてトスされたボールを打ち込んでいく。

 しかし、新入部員にはバレー初心者もいて、ボールをうまく打てずネットに引っかけてしまう。


 そんな中、宮原くんはきれいな助走から先輩たちよりも高く飛び上がり、鋭いスパイクをサイドラインぎりぎりに打ち込んだ。

東ほのみ
東ほのみ
(きれいなフォームだ。しかも、この中の誰よりも速いスパイクだった)
安藤由香
ゆづちゃんかっこいいー! いつもメガネ外してればいいのにぃー
東ほのみ
東ほのみ
えぇー、いや、眼鏡はかけたままのがいいよ
東ほのみ
東ほのみ
(眼鏡無しは、屋上でのこと思い出しちゃうし)
安藤由香
おぉ? ほのちゃんは綾崎先生よりゆづちゃん派なのぉー?
東ほのみ
東ほのみ
い、いや、そっちのが話しやすいってだけ!
安藤由香
へぇー? そーなんだ、ふふっ。あ、そういえば、さっき先輩たちが話してたんだけどね。ゆづちゃんて県の強化選手だったんだって
東ほのみ
東ほのみ
だった?って、今は違うの?
安藤由香
辞退しちゃったらしいよぉー。しかも、私立の中高一貫から外れてうちの高校来たみたい
東ほのみ
東ほのみ
ふーん
東ほのみ
東ほのみ
(ワケありって感じか。まぁ、問題起きそうなこと私にしてるもんなー)


 そんなことをぼんやりと考えていると、スパイクから着地した宮原くんと目が合う。




     ド
      キ
       ッ




 屋上での妖艶な笑みとは違い、良いスパイクをキメて楽しそうな微笑みを浮かべ、宮原くんは列に戻っていった。

 列に並んでいる宮原くんが練習着の胸元を引っ張って汗を拭うと、引き締まった腹筋が隙間から見え、自然と目がいってしまう。

東ほのみ
東ほのみ
(わっ! わざと見たわけじゃない!
たまたま見えただけ!! 大丈夫、気づかれてないし!)
安藤由香
ほのちゃん! 危ない!
東ほのみ
東ほのみ
え?


 我に返って目の前を見ると、打たれたスパイクが私の方へ向かってきていた。

 気づくには遅すぎ、当たるのを覚悟して身構えていると、道人くんが私の前に出てきて抱きしめる。

綾崎道人
綾崎道人
ほの……、っ大丈夫!?
東ほのみ
東ほのみ
え、べ、別に当たっても大丈夫で……。……あ、いや、えっと、ありがとう、ございます


 守ってくれた必死そうな道人くんの表情に胸が高鳴り、天邪鬼な言葉が出てきそうになるが、何とか飲み込む。

東ほのみ
東ほのみ
(そんな表情、……反則でしょ)
綾崎道人
綾崎道人
そうか。あんまりよそ見するなよ
東ほのみ
東ほのみ
~~っ!?


 少し低めに耳元でささやかれた言葉で恥ずかしさは頂点に達し、全身が熱くなって言葉すら発せられなくなってしまう。





 練習が終わり部員たちがストレッチをしている間に、私と安藤さんは片づけを始めていた。

安藤由香
じゃあ、これ部室に持ってちゃうね
東ほのみ
東ほのみ
うん。私もこれ終ったら持ってくよ


 ボールを乾拭きしていると、背後から誰かが歩み寄ってくる足音がした。

宮原唯月
宮原唯月
それ一人じゃ大変でしょ。手伝うよ
東ほのみ
東ほのみ
え!……う、あ
東ほのみ
東ほのみ
(やばい! 天邪鬼でそう!!)
宮原唯月
宮原唯月
勝手にやってるから気にしないで
東ほのみ
東ほのみ
……っ、は、はい
宮原唯月
宮原唯月
ははっ、なんで敬語?
東ほのみ
東ほのみ
わ、わかってるでしょ!? 聞かないで!
宮原唯月
宮原唯月
あー、はいはい、ごめんね。それより、さっきよかったね
東ほのみ
東ほのみ
なっ! なにがっ!?
宮原唯月
宮原唯月
ボールあたりそうだった時
東ほのみ
東ほのみ
……あ、あれは


 道人くんの表情や声、触れた体温を思い出して、私はまた顔に熱がたまる。

宮原唯月
宮原唯月
へぇー、そんな表情できるんだ
東ほのみ
東ほのみ
なっ、そんなって何!?
宮原唯月
宮原唯月
素直でかわいい感じの照れ顔
東ほのみ
東ほのみ
~~っ!!? べ、別に――


 宮原くんに言い返そうとした時、拭いていたボールが思わぬ方向からとられた。

綾崎道人
綾崎道人
宮原くんに東さん、下校時間がギリギリなんだから、サボってないでちゃんと片付けするように


 そう言って、道人くんは少し不機嫌そうに怒ってボールを持っていた。

 今まで見たことのないその表情はそれほど恐ろしいわけでもないのに、先程とは打って変わってとても居心地が悪く、怖ささえ感じた。

宮原唯月
宮原唯月
すみません、手伝おうと思ったんですけど、話し過ぎてました。俺は支柱片づけて来ます
綾崎道人
綾崎道人
ああ、よろしくな
東ほのみ
東ほのみ
(なに、自分は梅川先生と仲良さそうに話してたくせに……)
東ほのみ
東ほのみ
……ふん、すみませんでしたっ
綾崎道人
綾崎道人
……


 むしゃくしゃした私は、そのまま次のボールを拭こうと俯くと。

綾崎道人
綾崎道人
……ごめんな
東ほのみ
東ほのみ
え?


 か細い声で聞こえた言葉に驚いて道人くんの方を見るが、もう背中を向けて離れてしまっていた。


 何に対しての謝罪かわからないけど、それは家でしか聞けない、私を溺愛している道人くんの声に聞こえた。

東ほのみ
東ほのみ
(……なんで今そんな声で。道人くんが何考えてるのか、全然わかんないよ)