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第13話

花火が打ちあがった時に


 ふよふよと水風船が浮かぶ水槽の前で、私と宮原くんは作戦会議をしていた。

宮原唯月
宮原唯月
じゃあ、ここで素直女子への二歩目ね
東ほのみ
東ほのみ
今!?
誘うのだって勇気だしたのに!
宮原唯月
宮原唯月
誘うだけで終わるわけないでしょ?


 宮原くんは釣り針を器用にゴムの輪に引っ掛け、ピンク色の水風船を釣り上げる。

 それは自然に私の手のひらへと置かれた。

東ほのみ
東ほのみ
そ、そうだけど……
宮原唯月
宮原唯月
じゃ、綾崎先生と2人で花火を見ること
東ほのみ
東ほのみ
梅川先生だっているのに、
2人でなんて無理だよ!
断られるに決まってる!
宮原唯月
宮原唯月
だから、そのヨーヨーをあげたんだよ
東ほのみ
東ほのみ
これ何かあるの?
普通の水風船に見えるけど
宮原唯月
宮原唯月
ま、俺があげたってことだけ覚えておけばいいよ。お守りみたいなもの
東ほのみ
東ほのみ
お守りって! そうじゃなくて――
宮原唯月
宮原唯月
いいから、早く先生たちのとこ行くよ
東ほのみ
東ほのみ
ま、まってよ!!


 先に歩き出してしまう宮原くんの背中を追い、道人くんたちがいる射的の屋台にむかった。

梅川沙良
梅川沙良
道人うまぁ~い! ねぇ、次はあれとってよぉ~
綾崎道人
綾崎道人
そんなに取ったら持ち帰るの大変だろ? それくらいにしときな
梅川沙良
梅川沙良
えぇ~、だって道人の構えてる姿かっこいいんだものぉ
綾崎道人
綾崎道人
はいはい、ありがとう
宮原唯月
宮原唯月
先生たち、楽しんでますね? 
その梅川先生が持っているぬいぐるみ、綾崎先生が取ったんですか?
梅川沙良
梅川沙良
そうよぉ~。私のために♪


 梅川先生はぬいぐるみを二つ両手に持ち、見せびらかすように頬に当てて微笑むと私にだけ囁きかけた。

梅川沙良
梅川沙良
ほのみちゃんは、道人から貰えてないみたいだけど♪


 可愛いぬいぐるみに罪はない。けど、梅川先生の挑発で、それはとても憎たらしいものに見えた。


綾崎道人
綾崎道人
ほのみ。ヨーヨー釣りにいってたんだ? 可愛い柄だね、ほのみっぽい
東ほのみ
東ほのみ
これは……、宮原くんがとってくれたの。あたしのために!


 道人くんは水風船をみて悲しそうに微笑むと、私から離れて屋台の方へと行ってしまう。

東ほのみ
東ほのみ
(あんな顔させたいわけじゃない! 道人くんに八つ当たりしてどうするのっ……!)


 私が後悔ばかりしていると、道人くんは射的の銃を持って優しく微笑みかけてくれた。

綾崎道人
綾崎道人
ほのみ、どれが欲しい?
東ほのみ
東ほのみ
え、……ベ、別に――!


 いらない、そう言いかけた時、宮原くんが「言うな」とでもいう風に、唇を人差し指でおさえていた。

東ほのみ
東ほのみ
(危ない! また天邪鬼になっちゃうとこだった!)
宮原唯月
宮原唯月
梅川先生、欲しいって言ってたのこれですよね?
梅川沙良
梅川沙良
あら、取ってくれたの?
宮原唯月
宮原唯月
射的は僕も得意なんですよ。
他に何が欲しいですか?


 宮原くんは梅川先生の気を引き、道人くんと話せ、と目で訴えてきた。

東ほのみ
東ほのみ
み、道人くん! ……あたし、真ん中の猫のぬいぐるみがいい
綾崎道人
綾崎道人
あれね、ちょっと待って


 道人くんは片目を瞑り腕をまっすぐ伸ばして構えると、狙いを定めて引き金を引いた。

 見事に猫のぬいぐるみは倒れ、道人くんは私を見てニコッと笑みを浮かべる。

綾崎道人
綾崎道人
はい、ほのみ。もらってくれる?




     ドキッ ドキッ ドキッ



東ほのみ
東ほのみ
(かっこいい……)
東ほのみ
東ほのみ
う、うん。……ありがとう



 無性に恥ずかしくなって目を逸らそうとすると、また宮原くんと目が合う。

 彼は空を指さしていた。
東ほのみ
東ほのみ
(そうだ! 花火!)
綾崎道人
綾崎道人
他に欲しいのある?
あと3発は撃てるけど
東ほのみ
東ほのみ
欲しいの……ある! ……えっと、
私……道人くんと花火を――


 最後まで言い切る前に私の体は押し退けられ、道人くんとの間に梅川先生が割り込んできた。

梅川沙良
梅川沙良
じゃあ、あれにしましょ?
綾崎道人
綾崎道人
わ!? もう、沙良には取ってあげただろ。ほのみ、ごめん、どれって言った?
梅川沙良
梅川沙良
妹みたいだからってほのみちゃんには優しいんだからぁ!




         ズキンッ




 梅川先生の言葉は傷を抉り、道人くんに対する馴れ馴れしい態度も私を怯ませた。

東ほのみ
東ほのみ
2人は……、付き合ってるみたいに仲がいいんですね
梅川沙良
梅川沙良
ほんとぉ? 私たち大学時代に付き合ってたのよ
東ほのみ
東ほのみ
(えぇぇぇえええええ!?)
綾崎道人
綾崎道人
沙良っ!
梅川沙良
梅川沙良
別にいいでしょ~?
本当のことなんだから♪


 道人くんの頬をつついて嬉しそうに微笑んだ梅川先生は、私の方に振り返ると小さな声で、けれど、私にはしっかりと聞こえるように囁いた。

梅川沙良
梅川沙良
私、よりを戻そうと思ってるのぉ。
だ・か・ら♪ 妹のあなたは邪魔なんてしないでね♪
東ほのみ
東ほのみ
……っ! 邪魔って……
綾崎道人
綾崎道人
沙良!
ほのみに変なことふきこむなよ!?
梅川沙良
梅川沙良
もう~、そんなに怒らないでよぉ
綾崎道人
綾崎道人
ほのみ? ごめんね、
こんなだけど悪い奴じゃないから




          ズキンッ



東ほのみ
東ほのみ
(道人くんは、なにを謝ってるの? この人を庇ってる? ……なんで)


 私は声を出すことも、道人くんの顔を見ることもできなかった。

 今にも……、涙がこぼれてしまいそうだったから。


 けど、我慢もできず雫は頬を伝い、私は顔を背けて人混みの中へと走った。

綾崎道人
綾崎道人
ほのみ!? 待って!


 今口を開けば、梅川先生の前で道人くんに八つ当たりしてしまう。

 そんなことをしたら、思うつぼだ。笑われる。


 無我夢中で走っていると、後ろから手を掴まれた。

宮原唯月
宮原唯月
ほのみっ!
東ほのみ
東ほのみ
……みや、はらくん。私、……誘えなかった


 宮原くんは私よりも悲しそうなな表情で、手を掴んでいた。

宮原唯月
宮原唯月
もういいよ、頑張ってたんだから
東ほのみ
東ほのみ
けど、……やっぱり、素直な可愛い女子になんて、なれないよ。口を開けば、酷いことばっかり……言っちゃって
宮原唯月
宮原唯月
いいって、もうそのままでいいよ
東ほのみ
東ほのみ
よくないよ。……こんなんじゃ――




        バンッ!




 夜空に大輪の花火が打ちあがり、私は最期まで言えないまま、宮原くんに抱き寄せられた。

宮原唯月
宮原唯月
ほのみはそのままでも可愛いってば
東ほのみ
東ほのみ
……え、……宮原くん?


 彼はか細い声で囁き、私を力強く抱きしめる。

 そんな宮原くんの顔を見上げようとした時、彼の向こうに追いかけてきた道人くんが見えた。

 必死に辺りを見渡している道人くんの視線が私に向けられた瞬間、また一つ花火が打ちあがった。




 頭の中が真っ白になり、打ちあがる花火の音だけが私の中で反響している。





     バンッ! バンッ! バンッ!