第13話
花火が打ちあがった時に
ふよふよと水風船が浮かぶ水槽の前で、私と宮原くんは作戦会議をしていた。
宮原くんは釣り針を器用にゴムの輪に引っ掛け、ピンク色の水風船を釣り上げる。
それは自然に私の手のひらへと置かれた。
先に歩き出してしまう宮原くんの背中を追い、道人くんたちがいる射的の屋台にむかった。
梅川先生はぬいぐるみを二つ両手に持ち、見せびらかすように頬に当てて微笑むと私にだけ囁きかけた。
可愛いぬいぐるみに罪はない。けど、梅川先生の挑発で、それはとても憎たらしいものに見えた。
道人くんは水風船をみて悲しそうに微笑むと、私から離れて屋台の方へと行ってしまう。
私が後悔ばかりしていると、道人くんは射的の銃を持って優しく微笑みかけてくれた。
いらない、そう言いかけた時、宮原くんが「言うな」とでもいう風に、唇を人差し指でおさえていた。
宮原くんは梅川先生の気を引き、道人くんと話せ、と目で訴えてきた。
道人くんは片目を瞑り腕をまっすぐ伸ばして構えると、狙いを定めて引き金を引いた。
見事に猫のぬいぐるみは倒れ、道人くんは私を見てニコッと笑みを浮かべる。
ドキッ ドキッ ドキッ
無性に恥ずかしくなって目を逸らそうとすると、また宮原くんと目が合う。
彼は空を指さしていた。
最後まで言い切る前に私の体は押し退けられ、道人くんとの間に梅川先生が割り込んできた。
ズキンッ
梅川先生の言葉は傷を抉り、道人くんに対する馴れ馴れしい態度も私を怯ませた。
道人くんの頬をつついて嬉しそうに微笑んだ梅川先生は、私の方に振り返ると小さな声で、けれど、私にはしっかりと聞こえるように囁いた。
ズキンッ
私は声を出すことも、道人くんの顔を見ることもできなかった。
今にも……、涙がこぼれてしまいそうだったから。
けど、我慢もできず雫は頬を伝い、私は顔を背けて人混みの中へと走った。
今口を開けば、梅川先生の前で道人くんに八つ当たりしてしまう。
そんなことをしたら、思うつぼだ。笑われる。
無我夢中で走っていると、後ろから手を掴まれた。
宮原くんは私よりも悲しそうなな表情で、手を掴んでいた。
バンッ!
夜空に大輪の花火が打ちあがり、私は最期まで言えないまま、宮原くんに抱き寄せられた。
彼はか細い声で囁き、私を力強く抱きしめる。
そんな宮原くんの顔を見上げようとした時、彼の向こうに追いかけてきた道人くんが見えた。
必死に辺りを見渡している道人くんの視線が私に向けられた瞬間、また一つ花火が打ちあがった。
頭の中が真っ白になり、打ちあがる花火の音だけが私の中で反響している。
バンッ! バンッ! バンッ!
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