空き教室の中で、梅川先生は道人くんを抱きしめている。
けど、そんな彼女を引きはがして、道人くんは私を好きだと言った。
私は道人くんの好きという気持ちをうまく信用できなかった。
けど、道人くんは甘やかすどころか、学校では厳しくクールになった。
なんだか、わざと距離を置いているような不自然さ。
窓からのぞくのをやめてボーっと考え込んでいると、宮原くんが私の耳に息を吹きかけてきた。
宮原くんはそう言って私の背中を押し、渡り廊下のど真ん中に追いやった。
左を向けば、少し目元が赤く腫れた梅川先生と道人くんが歩いて来た。
しかし、梅川先生は私と目が合うといつも通りの明るい笑みを浮かべた。
焦って言い訳をしていると、道人くんが肩に手を回して支えながら立たせてくれた。
顔が急接近して吐息が触れる距離に、私の心臓は音が伝わってしまいそうなほど脈打った。
ド ド
キ ド キ
キ ド
ド キ
キ ド ド
ド キ キ
キ
そう言いかけ、顔を上げるが……。
道人くんは何事もなかったかのように、梅川先生の隣に立ちエスコートして去っていこうとする。
まるでお似合いの大人な恋人同士に見える素振りに、私はくじけそうになった。
けど、「考えるより行動」という宮原くんの言葉を思い出し、私は勇気を出してまた声をかける。
その呼びかけに二人の足は立ち止まる。
私が何も答えられずにいると、二人はその場を立ち去ってしまった。
不自然さを感じながらも、心のどこかでうまくいくだろうという気持ちがあった。
けど、それは告白することもできずに打ち砕かれた。
呆然と二人の背中を眺めていたら、後ろから優しく腕が回されて抱きしめられる。
思ったより悲しくなんてない。
涙なんて流れてない。
私は……、道人くんを好きじゃない。
そうやって、呪文のように心の中でつぶやき続けた。
全部、わからなくなればこの胸の痛みも消えると思って……。
宮原くんは私に向き直り、真っすぐと瞳を覗き込んできた。
私は彼の口をふさぐように、強く抱きしめた。
そう思いながらも、ただただ傷ついた心から湧き出る悲しみを止めてほしかった。
宮原くんは何も言わず、瞼にキスを落としてから包み込むように抱きしめてくれた。
☆
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。