第17話

告白の答えなんて
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2019/07/25 09:00


 合宿も、夏休みも終わり学校が始まった。

 今朝、両親も帰ってきて、今日から道人くんは自分の家に帰ってしまう。残念だけど、道人くんと仲直りした今なら大丈夫。

 けど、まだ一つだけ解決していないことがある。

宮原唯月
宮原唯月
珍しいよね。東さんが一緒に帰ろうなんて言うの
東ほのみ
東ほのみ
え!
そ、そそんなことないでしょ!?


 私はまだ告白の答えを出せず、宮原くんと気まずいままだった。

東ほのみ
東ほのみ
(けど、道人くんとも話して普通に戻れたんだから! 宮原くんとだって話せばっ!!)
東ほのみ
東ほのみ
(……って、思ったけど)


 隣を歩く宮原くんを横目で盗み見ると彼も私を見ていて、バッチリと目が合ってしまう。

 咄嗟に目をそらし、俯いて隣を歩き続けること五分弱。

 体育館を出てから、こんなことを10回以上やっている。

東ほのみ
東ほのみ
(私が宮原くんとの気まずさを解消するには、告白の返事をしなきゃいけないってことじゃん!)
東ほのみ
東ほのみ
(答えだすのが怖いから気まずいんだって!! 話せばいいとか思った過去のあたしバカ!!)


 俯きながら何も言い出せずにいると、宮原くんの手が肩に回されて引き寄せられる。

東ほのみ
東ほのみ
え!? な、何!?
宮原唯月
宮原唯月
電柱。ぶつかるよ
東ほのみ
東ほのみ
へ?


 そう言われて顔を上げると、あと一歩先に電柱があった。
宮原唯月
宮原唯月
どうせ告白の返事を悩んでるんだろうけど、東さんが怪我するくらいならそんなの考えなくていいから
東ほのみ
東ほのみ
……そ、そんなのっ――
宮原唯月
宮原唯月
今、先生といい感じなんじゃないの?
東ほのみ
東ほのみ
い、いい感じって!?
そんなんじゃ……。けど、……そんなことないかもしれないけど、……前より仲良く慣れた気がする
宮原唯月
宮原唯月
なら、作戦通りだから、いいよ
東ほのみ
東ほのみ
さく……せん?


 宮原くんは私の手を引いて一歩先を歩き始めた。

宮原唯月
宮原唯月
そ、本気じゃないから


 そう言いながらも、宮原くんの手にはぎゅっと力がこめられ、離すつもりがないように思えた。

東ほのみ
東ほのみ
……宮原くんは、初めての男の子の友達なの。だから……
宮原唯月
宮原唯月
俺も、東さんみたいな面白い友達初めてだよ。
東ほのみ
東ほのみ
なにそれっ! バカにしてるでしょ?
宮原唯月
宮原唯月
してないよ。
……本当、一緒にいて面白い
東ほのみ
東ほのみ
そ、……そっか




   ドキッ ドキッ ドキッ




 宮原くんのいつもより真剣で少し低い声に緊張して、私まで手に力がこもってしまう。

東ほのみ
東ほのみ
(やっぱり、宮原くんは……)


 しかし、手はパッと離されてしまい、宮原くんがこちらに振り返った。

宮原唯月
宮原唯月
ま、綾崎先生にフラレたら慰めてあげてもいいよ
東ほのみ
東ほのみ
……う、上からー! んー……けど、もしそうなったら、話聞いてね
宮原唯月
宮原唯月
少しだけね
東ほのみ
東ほのみ
本当、宮原くんっていじわる!
宮原唯月
宮原唯月
なに言ってんの、優しいでしょ?





 やっと笑みが溢れふざけ始めたとき、見慣れた車が近くに停まった。

綾崎道人
綾崎道人
ほのみ、宮原くん
東ほのみ
東ほのみ
あ、みっ……道人くん、いいの?
……まだ学校の近くなのに
綾崎道人
綾崎道人
学外だから大丈夫。それより、もう暗いし二人とも送ってあげるよ
宮原唯月
宮原唯月
……俺は大丈夫です。
東さんをお願いします
綾崎道人
綾崎道人
気を遣わなくていいから、こういうときは乗っていきなさい
東ほのみ
東ほのみ
宮原くん、せっかくだし
宮原唯月
宮原唯月
はぁ、ありがとうございます


 宮原くんと二人で後部座席に座ると、道人くんはバックミラーで私の様子をうかがっているようだった。

綾崎道人
綾崎道人
珍しいね、
二人が一緒に帰ってるなんて
東ほのみ
東ほのみ
え! えぇーっと
宮原唯月
宮原唯月
部活の事で少し話してたんです
東ほのみ
東ほのみ
そ、そう! ちょっとね?
綾崎道人
綾崎道人
……そっか。あ、宮原くんの家はこっちでいいかな?
宮原唯月
宮原唯月
はい


 宮原くんを送り届けて二人きりになると、道人くんは少し考え込みながら口を開いた。

綾崎道人
綾崎道人
今日、……宮原くんに返事をしたの?
東ほのみ
東ほのみ
……うーん、できたのかな?
けど、友達でいてくれるって
綾崎道人
綾崎道人
そっか。すごく悩んでいたから心配だったけど、良かったね
東ほのみ
東ほのみ
うん、初めてできた男の子の友達だし……、宮原くん優しいからね。本当に友達でいられてよかった!
綾崎道人
綾崎道人
……俺としては心配だけどね
東ほのみ
東ほのみ
え?


 もう外は暗く、街灯が通り過ぎるたびに車内に光が差し込む。

 道人くんの表情は少し見えにくいけど、どこか悩んでいるように見えた。

綾崎道人
綾崎道人
明日からは、帰り車で送るよ
東ほのみ
東ほのみ
え?
けど、特別扱いはしないって……
綾崎道人
綾崎道人
もう日が落ちるのも早いし、
女の子一人じゃ危ないからね
東ほのみ
東ほのみ
じゃあ、……安藤さんも?
綾崎道人
綾崎道人
それは、……先生としてじゃなくて、俺がほのみを心配だから……
東ほのみ
東ほのみ
っぷ! ふふふ、嘘!
じゃあ送ってもらっちゃお!
楽だしー!
東ほのみ
東ほのみ
(嫉妬かな、なんて思ったけど、
……そんなわけないか)
綾崎道人
綾崎道人
ははっ。じゃあ学校の裏門で大丈夫?
明るい場所にいるんだよ?
東ほのみ
東ほのみ
うん!


 駐車場に車を停め、道人くんは道人くんの家に、私はその隣の自分の家に帰っていく。

綾崎道人
綾崎道人
なんか、自分の家に帰るのに変な感じだなぁ
東ほのみ
東ほのみ
ずっとうちにいたもんね。
まぁ、寝る家が違うだけで、道人くんっていつもうちにいるけどね?
綾崎道人
綾崎道人
じゃあ、今度はほのみが、
俺の部屋に泊まりに来る?
東ほのみ
東ほのみ
え?
……い、行くわけないでしょ!!!
もう! おやすみ!!


 道人くんは私が慌てているのを見て笑っていたけど、あんなことを言われたら色々と勘違いしてしまう。

東ほのみ
東ほのみ
(どうせ道人くんだし! あたしが想像しちゃったようなことなんて起きないだろうけど! っていうか、なに想像してるのあたしっ!!)
東ほのみ
東ほのみ
(最近、勘違いしてばっか……。道人くんにも少しは自覚してほしいわ!)


 それがわざとだと、このときの私はまだ知らなかった。







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