合宿も、夏休みも終わり学校が始まった。
今朝、両親も帰ってきて、今日から道人くんは自分の家に帰ってしまう。残念だけど、道人くんと仲直りした今なら大丈夫。
けど、まだ一つだけ解決していないことがある。
私はまだ告白の答えを出せず、宮原くんと気まずいままだった。
隣を歩く宮原くんを横目で盗み見ると彼も私を見ていて、バッチリと目が合ってしまう。
咄嗟に目をそらし、俯いて隣を歩き続けること五分弱。
体育館を出てから、こんなことを10回以上やっている。
俯きながら何も言い出せずにいると、宮原くんの手が肩に回されて引き寄せられる。
そう言われて顔を上げると、あと一歩先に電柱があった。
宮原くんは私の手を引いて一歩先を歩き始めた。
そう言いながらも、宮原くんの手にはぎゅっと力がこめられ、離すつもりがないように思えた。
ドキッ ドキッ ドキッ
宮原くんのいつもより真剣で少し低い声に緊張して、私まで手に力がこもってしまう。
しかし、手はパッと離されてしまい、宮原くんがこちらに振り返った。
やっと笑みが溢れふざけ始めたとき、見慣れた車が近くに停まった。
宮原くんと二人で後部座席に座ると、道人くんはバックミラーで私の様子をうかがっているようだった。
宮原くんを送り届けて二人きりになると、道人くんは少し考え込みながら口を開いた。
もう外は暗く、街灯が通り過ぎるたびに車内に光が差し込む。
道人くんの表情は少し見えにくいけど、どこか悩んでいるように見えた。
駐車場に車を停め、道人くんは道人くんの家に、私はその隣の自分の家に帰っていく。
道人くんは私が慌てているのを見て笑っていたけど、あんなことを言われたら色々と勘違いしてしまう。
それがわざとだと、このときの私はまだ知らなかった。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!