梅川先生は魅惑的なボディラインを強調させるようにポージングして、審判用の旗を振る。
そんな気持ちもお構いなしに、道人くんと宮原くんはネットを挟んで睨み合う。
部員たちは練習後だというのに、楽しそうな梅川先生に当てられて二人に声援を送っていた。
私が道人くんにボールを手渡すと手首を掴まれ、じっと見つめられる。
周りは試合のことばかりだけど、道人くんは私の気持ちを汲み取ってくれていた。
嬉しくて、道人くんの話が気になって、勝ってほしいと思った時。
「俺は、ほのみが好きなんだから」
宮原くんの声が頭の中に響いた。それを掻き消すように、私は目一杯息をすって声を張る。
さらに歓声は大きくなり、ボールが空に打ちあがる。
今回は二人制のビーチバレーで、ルールは簡単に3回でボールを返すこと。
部活後で宮原くんも疲れているから、1セット取ったチームが勝ち。
道人くんは1年のレシーバーと、宮原くんは部長とペアを組んでいる。
宮原くんの鋭いスパイクを道人くんがうまくレシーブして打ち返す。
けど、宮原くんは高く飛んでボールをブロックした。
得点は交互に入っていき、早くもデュースに持ち込まれた。
二人は汗だらけになって、必死な面持ちだった。
額から滴る汗が顎を伝い、張り付く髪をかき上げる道人くん。
梅川先生は隣で得点板をめくりながら、私にだけ聞えるような小声で話しかけてきた。
慌てた私の声は砂浜中に響き渡り、部員たちの、道人くんの視線が一気にこちらを向く。
その隙をついた宮原くんは道人くんの足元にボールを叩きつける。
まさかと思い得点板を見ると、梅川先生が札をめくっていた。
宮原くんは部長にお礼を言うと、道人くんを見据えた。
そう一言いうと私のもとに歩み寄り、片手を握られる。
いつもみたいに余裕そうで、自信があって、何でもズバズバ言ってくる宮原くんだけど、どこも変わらないはずなのに、何か変な違和感を感じた。
宮原くんは深呼吸をすると、優しく微笑む。
え?
言葉がやっと頭まで届くと、体全体が沸騰しそうなほど熱くなった。
世界がぐるぐると回っている。
足元はグラグラと揺れて……そのまま――。
目の前は真っ暗になった。
ふんわりとマシュマロみたいに優しい何かが私を受け止めてくれた気がする。
これは……――。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。