暖房をつけた暖かいリビングで、私は一人ソファに座ってテレビを見ていた。
キッチンから聞こえていた包丁の音が止まり、お母さんがこちらに歩み寄ってくる。
梅川先生とよりを戻すといった日から道人くんは家に来なくなり、一切、私を溺愛することはなくなってしまった。
ズキンッ
考えれば考えるほど胸が痛み、できるだけ道人くんを意識しないように日々を送っていた。
けど、忘れられるわけない。
毎日、道人くんは私の家に来て、私の大好きなマドレーヌを食べさせてくれたり、一緒に映画を見ながら話をしていた。
夏休みには手料理を作ってくれた。
日が落ちるのが早くなると、車で家まで送ってくれた。
家にいるだけでも道人くんのことをたくさん思い出してしまう。
枕を涙で濡らし、私はいつの間にか眠りについていた。
コンッ コンッ
窓から玄関のところを覗いてみると、そこにはマフラーを巻き制服の上からコートを着た宮原くんが立っていて、私はすぐに支度を済ませ玄関を出た。
宮原くんはクスクスと笑いながら手を差し伸べ、私は少し戸惑いながらも手を重ねた。
また私は宮原くんに返事をかえせていない。
「もう俺を選びなよ」そう言ってくれたけど、道人くんを好きなままの私が彼の好意に甘えていいわけない。
ガチャッ
私たちが歩き出そうとした時、隣の家の玄関が開いた。
玄関から出てきた道人くんと目が合い、私は咄嗟に俯いた。
宮原くんは半歩前に出て私を隠すようにしてくれる。
そう言って車に乗ろうとする道人くんは少し寂しそうに微笑んでいた。
私は我慢できずに道人くんに向けて大声を発した。
車に乗ろうとしていた道人くんは立ち止まって私を見つめる。
道人くんは安心したように笑って、車に乗り込み行ってしまった。
煮え切らない私を宮原くんはずっと支えてくれている。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。