複雑に入り込んだ街を僕はただ歩く。
あてもなく、目的もなく。
さっき通った道は忘れたから、目に映るものすべてが真新しい。
蝶がひらりと僕の前を横切った。
幻想的な青に、黒く縁どられた羽は花弁のようにしなやかだ。
それを追いかけるように足を進める。
眩しすぎない光が雲と雲の間から降り注いでいた。それを受け、蝶はさらに輝く。
僕はそっと手を伸ばす。この幻をもっと近くで感じることを望んだ。
蝶は思ったよりも簡単に手のひらに収まった。
けれど、それはなんの変哲もないアゲハだっ
た。
違う。
僕はこんなものが欲しかったんじゃない。
もがく蝶からそっと手を離すと、ひらりと舞った。
ぐんぐん。上へ、上へ。
その姿はやっぱり気高くて、一瞬の過ちを後悔したのはあとのまつりだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。