男は白猫が暮らしている地域に住んでいた。
大人しく、人懐っこい猫が多い地域なので男はよく猫の写真を撮っていた。
白猫は、男の前に出ていきたかったが、撫でられるのも恥ずかしくてどうしても出ていけなかった。
出来れば、話したかった。
ただ毎日挨拶して、何気ない天気の話なんかをする関係になりたかった。
どうか、私と彼を話せるようにしてください。
そう星に願った日が何日になっただろうか。
男と出会った日から季節も流れ、辺りが寒く、木々が寂しくなった頃、丸くなって眠る猫の耳に声が聞こえた。
「もし、そこの白猫よ」
目を開けても何もいない。
キョロキョロと見回す白猫に声は続ける。
「私は天の声、お主の願いを叶えてやろう」
突然のことに白猫は真ん丸な目をさらに丸くする。
「厳しい条件が着くが、人となれば彼とは話せるようになるぞ」
「厳しい条件ってなあに?」
人間になれる代わりに目が見えなくなったり寿命が縮んだりなんてしたら嫌だと白猫は続けた。
「そんな悪魔みたいなことはせんよ。ただこのまじないは大きな力を使っておるからの、1つ禁止事項を設けてやっと期限付きの効果を得られるのだ」
「案外不便なのね」
猫はため息をついた。
それでも男と話したいという気持ちは変わらなかった。
「じゃあ、どんな禁止事項でどのくらい姿を変えられるの?」
「そうだな……相手と触れたら消えてしまうという条件なら4ヶ月ってところかの」
たったの4ヶ月!
白猫はあまりの厳しさに驚いたが、自分では男に触れるどころか恥ずかしくて触られることも出来ないだろうと思っていたため、それで4ヶ月ならいいかもしれないと思った。
「わかった。それでいいわ」
「よし。願い聞き受けた。4ヶ月だと春には猫に戻るな。春に消え、触れても消える雪のような白猫か」
不思議な言葉を述べ、それっきり天の声は聞こえなくなった。
その場で姿を変えてくれると思った白猫は何度か身をよじったり、目を瞑ったりしてみたが、姿は白い毛に覆われた猫のまま。
「なぁんだ。変わらないじゃない。嘘つき」
落胆した猫はまた丸くなって眠りに入っていった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。