白猫は、人間に恋をした。
白猫は小さかった。
もう子猫とは言えない歳だが、小さかった。
ある日、太陽に向かって揺れる大きな花目掛けてジャンプしたのだが、いまいち届かず手前の側溝に落っこちてしまった。
側溝には水が溜まっていた。小さい猫でも足がつくほどの浅さだったが、突然のことに白猫はパニックになって喚いた。
その声に気づいた男が側溝を覗き、白猫を見つけると、自分が汚れるのも気にせず手を伸ばしてすくい上げた。
カメラを持った、冴えないけれど優しそうな男だった。
白猫が擦りむいた左前足にオレンジ色のハンカチを切って巻いてくれた。
その時、白猫はパニックになって逃げてしまったが、あとから男のことを思い出してドキドキした。
擦りむいた程度の傷なら舐めればすぐに治るのだが、男の優しさが愛おしくてハンカチを外さなかった。
これが恋なのかもしれないと白猫は思った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。