第7話

電波猫を探せ! Part3
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2018/05/14 14:25
結衣は1週間、授業もそこそこに電波猫の特定(あわよくば捕獲)に向けて準備した。

猫集会の場所を突き止めたり、学校付近の猫の特徴をメモしたり。
見つけた時に仲良くしてくれるように、猫と仲良くなる方法やおやつについても調べた。

その結果、高校近くの神社で行われる夕方の猫集会が1番大規模で付近の多くの猫が集まることがわかった。
結衣は用意したものをリュックに入れ、夕方になってから高校へ向かう電車に乗る。電車から降りると、ホームは部活帰りの電車をまつ生徒で混雑していた。
その流れに逆らって、神社まで歩く。
結衣が神社に着いたときには、ちょうど境内が赤く染まり始めた所だった。

入口のベンチに腰掛けて様子を伺う。
猫は……いる。
白、黒、サバ、サビ、キジトラ、ミケ、ブチ。
様々な毛色、目の色、体格の猫が思い思いの過ごし方をしていた。

飛んでいるWiFiの電波一覧を表示させたスマホの画面には、まだ電波猫のものらしきものは表示されていない。

猫は続々と集まってくる。
どの猫が増えてどの猫がいなくなったのか分からない。
しかし、賽銭箱の向こうに1匹、目を閉じて座っている大柄なトラ猫だけは、明らかに先程までいなかったと結衣は感じた。

不思議な雰囲気を持つ猫を見て動けずにいた結衣だったが、スマホに目を向けると、WiFiに繋がっていることを示す表示が出ていた。
急いで詳細を開くと、【NEKO-neco-denpa】の表示、強度は最大の4。

ふと視線を感じた結衣が顔を上げるのと、乱入者がやってきたのはほぼ同時だった。
破裂音が響き、集会場はパニックになった猫達でてんやわんや。
多くの猫が塀の上や植え込みの下に逃げ込み、背中や尻尾の毛を逆立てて乱入者を威嚇した。

乱入者は中学生くらいの少年3人だった。
大柄なリーダー格の少年がエアガンを猫に向かって撃ち、残りの2人が大きな虫取り網を振り回して猫を捕らえようとしている。

関わりたくない。
結衣はそう思い、踵を返して逃げようとした。
しかし、背後からの突き刺さる視線に捕らわれ足が動かなかった。
あのトラ猫が、今は神社の屋根の上から結衣を睨んでいる。

なんで私なの!と結衣は抗議の声をあげようとしたが、虫取り網に捕まった猫の悲痛な叫びを聞いた時、自然と体が動いていた。
リーダー格の少年に突進していき、体当たりで怯ませる。
結衣の体重が軽かったのか少年は尻もちをつく程度だったが、攻撃は止んだ。

驚いてこちらに向かってきた残りの2人には、電波猫の餌付け用に持ってきた削り節パックをぶちまける。
宙に舞う削り節に少年2人が怯むと同時に、削り節の香りに誘われて隠れていた猫達が少年に飛びかかった。
酷い攻撃は受けないものの、猫同士の小競り合いに巻き込まれて引っかかれること必至だろう。

結衣はリーダー格の少年の前に仁王立ちになって言い放った。

「あんたたちも電波猫を探してたのかもしれないけど、やり方ってもんがあるでしょうよ!その足りない頭で考え直して出直しなさい!またこんなことやったら、ここをおすからね」

結衣が少年に突きつけたスマホの画面には、この付近一帯に住む子供たちが通っている中学校の電話番号。親指は発信マークの上にかざされている。

「ご、ごめんなさい。謝るから、それだけは!」

そう言って、少年たちは逃げ帰ってしまった。
あの口ぶりから見るに、過去にも何かやらかして怒られてるなと結衣は邪推するのだった。

周りを見ると猫達は、散らかった削り節を追いかけたり、自身の毛繕いを始めたりしていた。
いつの間にかトラ猫も屋根から降りて、結衣の目の前にいた。

「あなたが……電波猫?」

結衣はスマホを見る。
WiFiに接続出来ていることを示すアイコンが出ている。
一覧を開くと、案の定【NEKO-neco-denpa】の表示が出ていた。

すると、一瞬表示が消え、別の名前に変わった。

【たすけてくれて、ありがと】

目の前のトラ猫が目を細めている。
結衣には心なしか微笑んでいるように見えた。

「こちらこそ、振り回してごめん」

そう言うと、結衣は神社を出ていくことにした。
なぜあの時体が動いたのかは分からない。
今も、餌付けをしたり、捕まえようという気が全く湧かない。
1週間で猫達に情でも湧いたのだろうか。

スマホの画面を見る。
歩みを進める度に、【NEKO-neco-denpa】の強度は弱くなっていく。
2……1と表示が減っていき、一覧から名前が消えたことを確認すると、結衣はスマホの画面を消して、駅へ向かった。

――――――――――――――――――

結衣は、今回の件は自分と猫達(と中学生)の秘密にすることにした。友人には、電波猫は見つからなかったと言って誤魔化した。

しかし、月末に大事なことを忘れていた。
好きなマイナーバンドのスペシャルライブの申し込みが午後の3時から。
ホームページからの申し込みだが、正直読み込みがとても遅い。
マイナーバンドと言ってもそれなりにファンはいるため結衣は気が気でなかった。

駅で電車をベンチに座って待ちながら、何回かトライするものの、まずホームページに入れない。

「あーあと5分!もう無理かもしれない」

項垂れる結衣に友人は「そりゃー月頭のあんたに説教しに行かなきゃね」なんてぬかす。

絶望しながら画面をつついていると、入れっぱなしだったWiFiが接続可能なWiFiを見つけて接続したことを示すアイコンが出た。
驚いていると、すぐ横のデジタル時間表示が15:00を知らせる。
すぐさまページを再読み込みして、申し込みを済ませる。
申し込み完了のメールもしっかり受け取って、WiFi一覧を開く。


【NEKO-neco-denpa】の表示があった。


「じゃーん!」

結衣は一覧の画面を消して、友人に申し込み完了メールを見せる。

「ええ!?繋がったの!?マジで?」

「ふっふっふ。愛の力なのだ」

馬鹿みたいなやり取りをしている2人の座るベンチの下で、太いトラ猫の尻尾が揺れていた。

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