第8話

矛盾
1,190
2018/02/22 09:41
《☆イニ☆side》




☆イニ☆
…あ、はい、ありがとうございます、失礼します、





電話を切って
部屋の窓から見える満開の桜を眺める。





だけど、ひとつ、またひとつと花びらが落ちて。





季節は春。





内定をもらって就職先が決まったはずなのに
嬉しくないのはきっと
自分のやりたいことではないからだ。





でもそんな自分を封じ込んで
安定した、決まった道を進もうとする。





レールの上しか走らない電車のように。





きっと働き始めたらもう
動画投稿も難しくなってしまうだろう。





それでいいんだ。





俺みたいな人間は
目立たずに平凡な生活をした方が平和だから。





そしてまた、iPhoneが着信音とともに振動する。




☆イニ☆
もしもし、
テオくん
じんたん?明後日!





なんの前触れもなくテオくんがそう叫ぶ。




テオくん
明後日俺東京行くからお泊まりしよ!





" お泊まり "という言葉。





いつ以来だろうか。





記憶が無いほどに昔だ。




テオくん
みやの家で!





テオくんと2人きりじゃないことに
安心してしまっている自分がいるのに気づいた。





ヒートの予定を確認する。





ちょうどヒートは先月終わったばかりだった。




☆イニ☆
おっけ、じゃあまた連絡するね





その後も軽く言葉を交わして電話を切る。





きっともう、テオみやじんで
会って撮影することもなくなるんだろうな。





多分このお泊まりが最後になる。





テオくんを、





αを、





今まで恐れていたのに





もうこれが最後だと思ってしまうと
それはそれで悲しかった。





最近自分がおかしいと感じるようになって。





俺は、





____矛盾の中で、生きている。

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