《☆イニ☆side》
なんの前触れもなく開く俺の瞼。
真っ白な天井が目の前に広がっている。
少し眼球を動かせばカーテンが目に入った。
まだあやふやな意識。
突然、シャッとカーテンが開く。
その後すぐに聞こえたのは聞き覚えのある声。
" じんたん "
そうだ、俺、" じん " だった。
当たり前のことを今思い出す。
動かしづらい首を持ち上げて横を向くと
見覚えのある顔がこちらを見ていた。
…誰だっけ、
確かこの顔、
ああ、そうだ、
テオくんか。
忘れかけてたんだ、俺。
…確かに、なんで俺寝転んでるんだろう、
なんの装飾もされていない部屋、
固定されていて感覚が無い右足、
そして少しだけ痛む頭、
ここは多分、病院だろう。
テオくんが昨日あったことを教えてくれた。
そんなことがあったんだ、と
他人事ではないため全然笑えない。
記憶がなくなるほどの事故だったのだろうか。
…でも、
良かった。
なくなった記憶が事故のことだけで。
もし俺が、
テオくんを忘れてしまっていたら、
…考えるだけで恐ろしい。
そう言ったテオくんの声は少し潤んでいた。
ん、と応答する。
そっか、俺、そんなに笑ってなかったのか。
指摘されて気づく。
確かに起きてから笑っていない。
テオくんが笑顔でいてくれるから
きっと俺はそれに甘えていたんだろう。
本当はテオくんが1番不安だったかもしれないのに。
少し忘れかけていた笑顔を、今日は。
____テオくんだけに。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。