《テオくんside》
____ピコンッ、
ひとりで昼ご飯を食べている時
机の上で震えながら着信音を鳴らすiPhone。
『もうすぐ着くから!』
じんたんからのLINEだ。
今は外出している。
あれからじんたんの右脚はだんだん回復し
松葉杖なしでも歩けるようになった。
今日も撮影。
じんたんが帰ってきたらすぐに撮影できるように
少し散らかった部屋を片付けることにした。
しっかりと手を合わせて言う。
この癖がついたのもじんたんのおかげかもしれない。
今までこんなことを意識することはなかったけど
じんたんが毎日することだから。
机の上に広がっているものを仕分ける。
じんたんの病院の問診票やらなんやら。
と、
____パサッ、
落ちたものを拾い上げると
それは肝心なものが入っていない薬の袋だった。
表には " 頓服薬 " と書いてある。
俺は頭がいいわけでも薬剤師なわけでもないから
" 頓服 " の意味はよく知らない。
中には取扱説明書しか入っていなかった。
『薬名 : Ω性用発情抑制剤』
取扱説明書に書いてあった言葉。
別に驚きはしなかった。
だってもう既に知ってたから。
こんなに一緒に暮らしてて気づかないわけないし、
何より初めて会った時から分かったんだから。
でもやっぱり見つけてしまうと
少しだけ心が痛んだ気がした。
じんたんはどれくらい
俺に自分の性を教えないつもりなんだろう。
俺が聞くまで?
それとも、
俺が聞いても " βだよ " って言うの?
そこまで俺って信用されてないのかな、
____ガチャ、
玄関からじんたんの声がする。
早く隠さなきゃ、
またじんたんに警戒されるかもしれないのに、
何故か俺の頭と身体はガラクタのように動かない。
ノロノロと開く
ダイニングとリビングが繋がる引き戸。
回り込んで俺の方を覗く。
いつもなら迷わず " おかえり " って言うのに
疑うような口調でこんな言葉しか言えなかった。
言葉が詰まるじんたん。
ああ、抑制剤だよって言ってくれれば
なんの疑いもなく、そっかって流すのに。
自信、なくなっちゃうなぁ。
そう言って笑顔を作る。
こうでもしないと怖がられちゃうし。
少しでも安心させたくて。
俺は頼っていい人なんだって。
しょぼんとした顔。
お願いだからそんな顔しないで。
なるべく優しく言うと
じんたんの顔は安心したように緩む。
俺も相方としてまだまだだな、
そう、思ってしまった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。