第25話

頓服薬
1,196
2018/04/14 13:52
《テオくんside》





____ピコンッ、





ひとりで昼ご飯を食べている時
机の上で震えながら着信音を鳴らすiPhone。





『もうすぐ着くから!』





じんたんからのLINEだ。





今は外出している。





あれからじんたんの右脚はだんだん回復し
松葉杖なしでも歩けるようになった。





今日も撮影。





じんたんが帰ってきたらすぐに撮影できるように
少し散らかった部屋を片付けることにした。




テオくん
ご馳走様でした、





しっかりと手を合わせて言う。





この癖がついたのもじんたんのおかげかもしれない。





今までこんなことを意識することはなかったけど
じんたんが毎日することだから。





机の上に広がっているものを仕分ける。





じんたんの病院の問診票やらなんやら。





と、





____パサッ、




テオくん
…何これ、





落ちたものを拾い上げると
それは肝心なものが入っていない薬の袋だった。





表には " 頓服薬 " と書いてある。





俺は頭がいいわけでも薬剤師なわけでもないから
" 頓服 " の意味はよく知らない。





中には取扱説明書しか入っていなかった。





『薬名 : Ω性用発情抑制剤』





取扱説明書に書いてあった言葉。





別に驚きはしなかった。





だってもう既に知ってたから。





こんなに一緒に暮らしてて気づかないわけないし、





何より初めて会った時から分かったんだから。





でもやっぱり見つけてしまうと
少しだけ心が痛んだ気がした。





じんたんはどれくらい
俺に自分の性を教えないつもりなんだろう。





俺が聞くまで?





それとも、





俺が聞いても " βだよ " って言うの?





そこまで俺って信用されてないのかな、





____ガチャ、




☆イニ☆
ただいま〜





玄関からじんたんの声がする。





早く隠さなきゃ、





またじんたんに警戒されるかもしれないのに、





何故か俺の頭と身体はガラクタのように動かない。





ノロノロと開く
ダイニングとリビングが繋がる引き戸。




☆イニ☆
…テオくん?何してるの?





回り込んで俺の方を覗く。




テオくん
…何?これ、





いつもなら迷わず " おかえり " って言うのに
疑うような口調でこんな言葉しか言えなかった。




☆イニ☆
…それは、





言葉が詰まるじんたん。





ああ、抑制剤だよって言ってくれれば
なんの疑いもなく、そっかって流すのに。





自信、なくなっちゃうなぁ。




テオくん
…大丈夫だよ、知ってたし怒るつもりないから





そう言って笑顔を作る。





こうでもしないと怖がられちゃうし。





少しでも安心させたくて。





俺は頼っていい人なんだって。




☆イニ☆
あの…ごめんなさい、黙ってて





しょぼんとした顔。





お願いだからそんな顔しないで。




テオくん
誰でも内緒にしておきたいことなんてあるでしょ、ほら元気出して、ね?





なるべく優しく言うと
じんたんの顔は安心したように緩む。





俺も相方としてまだまだだな、





そう、思ってしまった。

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