《☆イニ☆side》
病室のドアを開けるなり
なんの躊躇いもなくそう言ってくるテオくん。
大人数部屋で他にも患者さんいるのに。
でもその患者さんは
テオくんの明るさと愛想の良さを気に入っているのか
むしろ歓迎しているように見える。
テオくんは
見ず知らずの人さえも虜にしてしまうのだろうか。
テオくんがお見舞いに来てくれた時に
必ず言われる言葉。
目を覚ましたばかりの俺は記憶を飛ばしすぎて
何度話しても忘れてしまっていたらしいから。
荷物を置いて丸椅子に座ると
楽しそうに喋り出したテオくん。
そういえばテオくん、お喋りだったな。
たった1週間強一緒にいないだけで
こんなにも感覚を忘れてしまうなんて。
撮影は楽しいだとか、少し寂しいだとか。
テオくんの話は
やっぱりいつでも俺に元気をくれた。
思い出したように言う。
見ないわけないじゃん、
せっかくテオくんが頑張ってくれるのに。
それに1番最初の動画なんて大号泣したんだからね。
夜中に1人、暗い病室で。
自分から聞いたくせに
やっぱ恥ずかしいなんて、テオくんらしい。
本当に申し訳なさそう。
テオくんはなにも悪くないのに。
俺も早く治さないとな。
テオくんはいつでも笑顔にしてくれる。
久しぶりにテオくんに会ったから
いっぱい喋りすぎて喉が渇いてしまった。
テオくんが買ってくれていたペットボトルを取る。
もう少しでキャップを開けられる、というところで
ペットボトルを落としてしまった。
両手が震えている。
そして荒くなる息。
やばい、ヒートだ。
すぐに棚にしまってあった薬を飲む。
これから1週間またテオくんと会えないのか。
これはテオくんの事情ではなく、俺の事情。
テオくんと会えないだけで
なぜこんなに
____気持ちが沈んでしまうんだろう、
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。