第2話

多眼孔病(完) –山崎 紗也夏–
35
2020/01/18 14:04


半年後…
紗也夏
紗也夏
また濃くなってる…
この頃には2つ目の瞳の影がうっすらと見えるほど
になっていた。

私の視界も日に日に霞んでいく。
紗也夏
紗也夏
本当に1年以内には見えなくなりそう
キキョウには もう1ヶ月近く会っていなかった

私は退職し、累と同棲を始めた


北川
紗也夏ただいま〜
紗也夏
紗也夏
おかえり
北川
今日は映画に行ってたんでしょ?楽しかった?
紗也夏
紗也夏
うん。よくあるラブストーリー
だったけど泣いた
帰ってくると一番に累は私を抱きしめてくる。


同棲をし始めてからの日課となっていた。
北川
それは良かったな 
紗也夏
紗也夏
あのね… 累、きいて


ゆっくり彼から離れた
北川
うん。
紗也夏
紗也夏
赤ちゃんが…できた…
北川
…ほ、本当に……!?
紗也夏
紗也夏
うん。検査薬も反応出てね、
さっき病院にも行ったの
紗也夏
紗也夏
3ヶ月だって
北川
3ヶ月か…そっか。
累は私のお腹を優しくさすった
北川
ーーー俺たちも、そろそろ結婚しよっか
紗也夏
紗也夏
え……
累はポケットから小さな箱を取り出した。
中には指輪が入っていた。
北川
これ、サイズぴったりだと思うんだ
 累の顔が ぼやけてよく見えない。

彼の顔、輪郭、影… 一つでも捉えようとするが
うまくいかない。
 涙が流れた
北川
 紗也夏 
紗也夏
紗也夏
…っ、幸せなはずなのにね……
北川
俺がついてるよ
紗也夏
紗也夏
だって子供の顔も見れないんだよ…?
北川
母親なら我が子のことは心で分かるよ
手を引かれて 抱きしめられる
北川
あの時言ったじゃん。
俺が紗也夏も子供も一生守るから。
紗也夏
紗也夏
累…
私たちは泣きながらキスをした



キキョウ
キキョウ
…なーんだ。ちょっと見てない間に
超うまくいってんじゃん
キキョウ
キキョウ
今日のところは帰ろっと♪





ベランダに出ると ほのかに桔梗の花の匂いがした。
近くにキキョウがいるのかもしれない。







ーー結婚式当日

ウェディングドレスに包まれた私は
時間までドレッサーの前に腰掛けていた



フワリと桔梗の花の匂いが舞う
キキョウ
キキョウ
おー、思ったよりずっと綺麗じゃん
紗也夏
紗也夏
…!!

きちんと顔を合わせるのは半年ぶりだ。
紗也夏
紗也夏
生きてたんだ……
キキョウ
キキョウ
失礼な!都合よく死なせないでよね!!
紗也夏
紗也夏
だって… 全然姿を見せないから
キキョウ
キキョウ
あっちの世界で色んな仕事 任されてさぁ〜
ちょっと愚痴らせてよぉ

相変わらずのマイペースぶりにホッとする
キキョウ
キキョウ
紗也夏さん
紗也夏
紗也夏
キキョウ
キキョウ
おめでとう。
紗也夏
紗也夏
… ありがとう

しばらくの沈黙が続く。

やがて口を開いたのはキキョウだった
キキョウ
キキョウ
もうほとんど見えてないでしょ。
紗也夏
紗也夏
うん…まあね。
キキョウ
キキョウ
辛くないの?
いつになく神妙な面持ちで見つめられる。
紗也夏
紗也夏
妊娠してるの。この子のためにも
頑張らなきゃ
キキョウ
キキョウ
妊娠… か、そっか。

そう呟くと クシャッとした顔で笑った
キキョウ
キキョウ
 あ〜安心した!おめでとうが2倍だね!
紗也夏
紗也夏
あんたこそ まだ大丈夫なの?
キキョウ
キキョウ
死ぬ運命とは言ったけど
期限は決まってないから平気!!




ー 1年後 春 ー

出産後、私は完全に光を失った。

生まれた女の子には 未来(みらい)と名付けた。


好きだった刑事の仕事も何もかもを手放したが
おかげで この家庭を手に入れることができた。
北川
今日の夕飯なに?
紗也夏
紗也夏
累が好きなハンバーグだよ〜
北川
 ほんと?未来が寝てる間に早く作ろ!

嬉しそうに弾んだ声が聞こえる。
紗也夏
紗也夏
この子の離乳食も作らなきゃ 
北川
未来はパパ似になりそうだよな
紗也夏
紗也夏
ママに似るよね〜? 女同士だし!
北川
鼻と…口元はカンペキ俺の遺伝だな 
紗也夏
紗也夏
目元はどうみても私似って言ってたくせに
北川
素直なところは俺に似るはず。
紗也夏
紗也夏
几帳面さは私譲りだわ
北川
なんだと?
紗也夏
紗也夏
 やんのね。どこからでも来なさいよ


累は、身構えた私の頰にキスをした。
紗也夏
紗也夏
… そ、そういう意味で言ったんじゃなかった
北川
分かってるよ
北川
俺らも…ちゃんと新婚感 味わいたいじゃん
紗也夏
紗也夏
なにそれ。


早くハンバーグを作ろう。この人の喜ぶ声を聴きたい。

私たちは 未来が起きないように、せっせと
夕飯の支度をするのだった




   〜END〜

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