半年後…
この頃には2つ目の瞳の影がうっすらと見えるほど
になっていた。
私の視界も日に日に霞んでいく。
キキョウには もう1ヶ月近く会っていなかった
私は退職し、累と同棲を始めた
帰ってくると一番に累は私を抱きしめてくる。
同棲をし始めてからの日課となっていた。
ゆっくり彼から離れた
累は私のお腹を優しくさすった
累はポケットから小さな箱を取り出した。
中には指輪が入っていた。
累の顔が ぼやけてよく見えない。
彼の顔、輪郭、影… 一つでも捉えようとするが
うまくいかない。
涙が流れた
手を引かれて 抱きしめられる
私たちは泣きながらキスをした
ベランダに出ると ほのかに桔梗の花の匂いがした。
近くにキキョウがいるのかもしれない。
ーー結婚式当日
ウェディングドレスに包まれた私は
時間までドレッサーの前に腰掛けていた
フワリと桔梗の花の匂いが舞う
きちんと顔を合わせるのは半年ぶりだ。
相変わらずのマイペースぶりにホッとする
しばらくの沈黙が続く。
やがて口を開いたのはキキョウだった
いつになく神妙な面持ちで見つめられる。
そう呟くと クシャッとした顔で笑った
ー 1年後 春 ー
出産後、私は完全に光を失った。
生まれた女の子には 未来(みらい)と名付けた。
好きだった刑事の仕事も何もかもを手放したが
おかげで この家庭を手に入れることができた。
嬉しそうに弾んだ声が聞こえる。
累は、身構えた私の頰にキスをした。
早くハンバーグを作ろう。この人の喜ぶ声を聴きたい。
私たちは 未来が起きないように、せっせと
夕飯の支度をするのだった
〜END〜
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。