──────女の子の、泣き声が聞こえる。
女の子が目の前で、泣いている。
‥‥‥ミッション遂行の為に必要な人だ。
私は女の子の前で腰を下ろし、顔を覗く。
女の子は顔を上げた。その目は虚ろで、腫れている。
私は精一杯笑った。ミッション遂行の為に。
お葬式‥‥‥。この子のお母さんは、娘を庇って死んだのか。
──────まるで、お姉ちゃんみたいだ。
‥‥‥死んじゃったよ。
私は嘘を吐いた。
‥‥‥この虚ろな目を見て、腫れてる目を見て、悲しそうな女の子を見て、「死んじゃった」なんて言えるわけがない。
女の子はそう言って、ペンダントを私に見せてきた。
きっと、このペンダントはお母さんの形見。
私のミッション遂行の為に必要なものは‥‥‥
女の子と、ペンダント。
─────そして、女の子を騙すこと。
私は両手を差し出し、笑う。
私はペンダントを受け取る。
煽てて油断させるつもりだった。
そうしたら、すんなりミッション遂行できると思ったから。
なのに、どうして、どうしてそんな顔をするの?
どうして、そんな嬉しそうな顔をするの?
私は笑ってペンダントを返した。
女の子は笑う。
私は手に持っていたスマホをそっとポケットにしまった。
『女の子のペンダントを盗め』
メールで届いたミッションは、女の子のペンダントを盗むこと。
─────どうやら、遂行できそうにないようです。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。