第11話

捨壱
680
2019/07/20 12:48
──────女の子の、泣き声が聞こえる。
女の子
うっ‥‥ぐすっ‥‥
女の子が目の前で、泣いている。
‥‥‥ミッション遂行の為に必要な人だ。
鳥羽 蛍
どうしたの?
私は女の子の前で腰を下ろし、顔を覗く。
女の子
だ‥‥れ‥‥‥?
女の子は顔を上げた。その目は虚ろで、腫れている。
鳥羽 蛍
私は蛍。鳥羽蛍
女の子
ほたる‥‥‥おねぇちゃん?
鳥羽 蛍
うん
私は精一杯笑った。ミッション遂行の為に。
女の子
ほたるおねぇちゃん‥‥‥私ね、お母さんを探してるの
鳥羽 蛍
お母さん?
女の子
うん。私がね、階段から落っこちそうになって、それでね、お母さんが助けてくれてね、お母さん頭から血が出ちゃってね、それでね、病院に行ってね、それからね、おそうしき行ったの
女の子
おそうしきでね、皆泣いててね、お母さんは上に行ったんだよって言ってるんだけどね、上を見てもいないの
女の子
ねぇねぇ、おそうしきってなぁに?
お葬式‥‥‥。この子のお母さんは、娘を庇って死んだのか。

──────まるで、お姉ちゃんみたいだ。
鳥羽 蛍
お葬式って言うのはね、死んじゃった人を天国に送ってあげる式のことなんだよ
女の子
死んじゃったひと‥‥‥?
女の子
お母さん、死んじゃったの?
‥‥‥死んじゃったよ。
鳥羽 蛍
ううん、まだきっと生きてるよ
私は嘘を吐いた。

‥‥‥この虚ろな目を見て、腫れてる目を見て、悲しそうな女の子を見て、「死んじゃった」なんて言えるわけがない。
女の子
そうだよね!良かったぁ‥‥‥
女の子
お母さんにこのペンダント返さないといけないから
女の子はそう言って、ペンダントを私に見せてきた。

きっと、このペンダントはお母さんの形見。
鳥羽 蛍
そっかぁ‥‥‥
私のミッション遂行の為に必要なものは‥‥‥
女の子と、ペンダント。


─────そして、女の子を騙すこと。
鳥羽 蛍
ねぇねぇ、そのペンダント見せてくれる?
私は両手を差し出し、笑う。
女の子
良いよ!はい!
私はペンダントを受け取る。
鳥羽 蛍
ありがとう!
鳥羽 蛍
素敵なペンダントだね!
女の子
えへへー、そうでしょ?
煽てて油断させるつもりだった。
そうしたら、すんなりミッション遂行できると思ったから。

なのに、どうして、どうしてそんな顔をするの?

どうして、そんな嬉しそうな顔をするの?
鳥羽 蛍
‥‥‥
女の子
ん?おねぇちゃん?
鳥羽 蛍
‥‥‥はい、これ。見せてくれてありがとう
私は笑ってペンダントを返した。
女の子
うん!
女の子は笑う。


私は手に持っていたスマホをそっとポケットにしまった。










『女の子のペンダントを盗め』


メールで届いたミッションは、女の子のペンダントを盗むこと。







─────どうやら、遂行できそうにないようです。

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