第30話

参拾
396
2020/08/08 04:40
芦阿 波戸
────まぁ、こんな感じかな
芦阿先輩の長くて重い過去の話を聞いて、私は、苦しそうに笑う芦阿先輩に何と言ったら良いのか分からなかった。
中島 春
その、由鶴くんは……
芦阿 波戸
死にはしなかったよ。すぐ救急車呼んだから、命は取り留めた
その言葉に、春はよかったと息を吐いた。
しかし現実はあまりにも残酷で。
芦阿 波戸
……その代わり、ずっと植物状態
植物、状態。
脳幹が機能停止していなかったら、ほぼ脳死。つまり、死。
芦阿 波戸
学校の先生とか、近所の人とかに、「あぁほら、いつかやると思ってたよ」みたいに言われて、人殺しだとか犯罪者だとか言われて、なのに遠藤の親は何も言わなかったんだよ
芦阿 波戸
普通怒鳴るよな。殴るよな。でも、何一つしなかったんだよ。母さんの友人だからとか、そういうの気にしてたとかでもないし
芦阿 波戸
それに、母さんも一度しか怒らなかった。怒った後、苦しいくらいに抱き締められた
芦阿 波戸
その上、気まずそうにしているクラスメイトをよそに、森は普通に俺に話しかけてくんだよ
芦阿 波戸
なんかさ、俺、そういうの耐えられなくて
芦阿 波戸
事故でも不可抗力でも何でもないから、俺が絶対的に悪くて、しかも前科たくさんあって。だから、怒らないとか優しくしたりとか普通に話しかけるとか、そんなの、俺にすることじゃないんだよ
芦阿 波戸
そんで結局逃げて、住んでた所から超遠い高校の寮住まい
芦阿 波戸
でもまだ独りになるのが怖くてさ。馬鹿だよな。俺、森の真似するようになったんだよ
芦阿 波戸
森はクラスの中心人物的存在だったから、森みたいに笑って、森みたいに話して、森みたいに接すれば独りにならないと思った
芦阿 波戸
その結果がこれ
芦阿 波戸
ほんと、馬鹿みたい
自嘲混じりに零す言葉は、今の“明るくて優しくて頼りになる先輩”な芦阿先輩を造り上げた苦しい理由であった。
芦阿 波戸
きっと、“俺”を知る誰かがこのデスゲームに俺を参加させたんだろうな
芦阿先輩はそうぽつりと呟くように言うと、パン、と手を叩いて笑顔を作った・・・
芦阿 波戸
はい、俺の話おしまーい!次にいこう!
初めっから、私は、私たちは、この先輩に騙されていたのだ。
この笑顔はホンモノですよ、と。
中島 春
……じゃあ、私いきます!
これ以上話を長引かせたくないのだろう。芦阿先輩が、次誰にする?と次の話へと促す。
春は、そんな先輩に応えるように戸惑いながらも手を上げた。
時岡 奏
……どうぞ
時岡くんが最初で、その次に芦阿先輩、そして私と、春は目配せをする。


一息吐いて、目を閉じて、ゆっくりと瞼を上げる。

そして、スカートをくしゃりと握りしめながら、春は言った。
中島 春
私は─────











───────罪もない人の夢を絶ち切った。



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