芦阿先輩の長くて重い過去の話を聞いて、私は、苦しそうに笑う芦阿先輩に何と言ったら良いのか分からなかった。
その言葉に、春はよかったと息を吐いた。
しかし現実はあまりにも残酷で。
植物、状態。
脳幹が機能停止していなかったら、ほぼ脳死。つまり、死。
自嘲混じりに零す言葉は、今の“明るくて優しくて頼りになる先輩”な芦阿先輩を造り上げた苦しい理由であった。
芦阿先輩はそうぽつりと呟くように言うと、パン、と手を叩いて笑顔を作った。
初めっから、私は、私たちは、この先輩に騙されていたのだ。
この笑顔はホンモノですよ、と。
これ以上話を長引かせたくないのだろう。芦阿先輩が、次誰にする?と次の話へと促す。
春は、そんな先輩に応えるように戸惑いながらも手を上げた。
時岡くんが最初で、その次に芦阿先輩、そして私と、春は目配せをする。
一息吐いて、目を閉じて、ゆっくりと瞼を上げる。
そして、スカートをくしゃりと握りしめながら、春は言った。
───────罪もない人の夢を絶ち切った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。